推しと奏でる、私たちの唄 〜ドS天才歌手の隣は甘くて難しい〜


 ーー…

 個室の外で待っていた灯里が、
 夏の姿に気づいて顔を上げる。

 「お待たせしました」

 夏の隣にいる女性――
 茉白と目が合う。
 
 圧倒的な美人だ。夏の隣にいても全く違和感ない。

 見惚れる灯里に、

 茉白は、灯里を見て、すぐに悟ったように微笑んだ。

 「あなたなのね」

 「……え?」

 「夏の“今”」

 そう言って、
 何のためらいもなく、夏の頬に軽くキスを落とす。

 海外式の、別れの挨拶。

 「じゃあ、またね。なつ」

 「あぁ、またな」

 茉白は去っていった。

 「ちょっと夏さん?!」

 慌てて周りを見渡すが人はいない。熱愛報道でも撮られたらどうするの?!

 「……茉白のは挨拶だよ」

 「ここは日本なのでそういった誤解を招く行動は
  ……っ!」

 灯里の言葉は途中で遮られた。

 目の前に綺麗な夏の顔があると思うと、一瞬の出来事だった。

 「これは、違うけど」

 「……‼︎」

 頭が追いつかない。
 く、唇にキスされた……?!

 「仕事行くぞ、マネージャー」

 何事もなかったように前を向く夏の背中を、
 灯里はただ呆然と見つめるしかなかった。

 胸の奥が、
 ぐちゃぐちゃに騒いでいるのに。