推しと奏でる、私たちの唄 〜ドS天才歌手の隣は甘くて難しい〜

 けれど、そんな普通の幸せは続かなかった。

 夏が高2、茉白が高3になり、付き合って一年が経つと、
 夏は相変わらず音楽に没頭していて、茉白は受験勉強で忙しかった。それでも、学校に行けば会えていた。

 一年後、茉白は海外の大学に進学、夏は“Shoreline”のメジャーデビューが決まった。遠距離生活が始まった。

 更に一年後、メジャーデビューで忙しい夏と海外にいる茉白が会うには、
 どちらかが無理をしなければならない関係になっていく。

 そして、ある夜。

「……私たち、最後に会ったの、いつだっけ?
 もう、別れよう」

 電話越しの茉白の声は、
 震えていた。

 夏は、引き止めなかった。
 引き止める余裕も、時間もなかった。
 その頃の夏は“音楽”でいっぱいだった。

 別れたあとも、夏は止まらずに、
 その結果、“アーティスト”として活躍し始めていた。

 昔から孤独に慣れていたはずなのに、茉白と別れてからより広く広がった孤独は、音楽で埋めた。

 そして、練習スタジオで、何気なく歌った新しい曲。
 歌いながら、ふと気づいた。

 ――ああ、これ、茉白のこと考えて作ってたんだ。


 俺は、
 こんなに茉白のこと思ってたのだ。
 本当は、大事にしたかった。

 そのことに気づいた時には、
 もう、戻る場所はなかった。