推しと奏でる、私たちの唄 〜ドS天才歌手の隣は甘くて難しい〜


 付き合い始めてからの時間は、穏やかだった。

 週末になると、茉白は夏の部屋に泊まりに来た。
 料理は得意じゃないくせに、なぜかオムライスだけは必ず作った。

 「できたよ」

 皿をテーブルに置いて、にこっと笑う。

 「見た目は……まぁまぁだな」

 「ひどい! 味はいいから!」

 スプーンで口に運ぶと、少し甘い。

 「……うまい」

 そう言うと、茉白はそれだけで満足そうだった。

 ソファに並んで座り、
 夏がギターを弾いて、茉白が隣でそれを聴く。

 何も話さない時間も、心地よかった。

 茉白は、夏が音楽を作る時間を邪魔しなかった。
 質問もしない。ただ、そこにいた。

 それが、夏には何より楽だった。

 「ねえ、夏」

 「ん?」

 「寝る前に、歌って」

 「は?」

 「ちょっとでいいから」
 「夏の声、落ち着くんだよね」

 断る理由がなかった。

 「……一曲だけな」

 「やった」

 小さく歌う。
 未完成の旋律。

 気づいた時には、
 茉白は眠っていた。

 夏はそっと身を起こし、
 その額に軽くキスを落とす。

 「……おやすみ、茉白」

 返事はない。

 それでも、
 この時間が続けばいいと、
 本気で思っていた。