推しと奏でる、私たちの唄 〜ドS天才歌手の隣は甘くて難しい〜


 新しい配属先──
 日本を代表するロックバンド Shoreline(ショアライン) の控え室前は、
 朝からスタッフの声が飛び交い、独特の緊張が漂っていた。

 Shorelineは結成13年目。通称ショアラ。
 繊細で中毒性のあるメロディを作る
 ボーカルの 朝倉 夏《アサクラ ナツ》(28)を中心に、
 ギターの 御堂 蓮《ミドウ レン》(28)、
 ベースの 桐生 柊《キリュウ シュウ》(28)の
 幼馴染三人で構成される。

 彼らが高校卒業後19歳でメジャーデビューして以来、
 CM・ドラマ主題歌が立て続けにヒット。
 今や“最も勢いのあるロックバンド”だ。

 灯里は深呼吸をして、控え室のドアをノックした。

 「失礼します。
  本日からサブマネージャーとして担当します、結城灯里です」

 そう言って頭を下げ、顔を上げた──その瞬間。

 腰が、抜けた。

 目の前のソファには、黒のパーカー姿の夏。
 無造作に組んだ脚、柔らかそうな前髪、
 そしてこちらを見ていないようでいて、確実に“射抜くような視線”。

 ……え?
 私の推し……思ってた100倍……かっこいい……

 灯里の膝がふわりと脱力し、
 ガタンと音を立てて床へ落ちそうになったところを、慌てて受け止めたのは蓮だった。

 蓮
 「お、おい、大丈夫?!」

 柊
 「ちょ、初日で倒れないでよ!?」

 灯里
 「す、すみませんっ……! 本当に、すみません!」

 顔が熱い。恥ずかしすぎて泣きそう。
 心臓がバクバクしている。

 そんな灯里を、夏はじっと見ていた。
 一瞬だけ口元が緩む。