推しと奏でる、私たちの唄 〜ドS天才歌手の隣は甘くて難しい〜


 夏の指がそっと再び、灯里に触れる。

 まだクリームついてるのかな…?

 「……っ」

 指先が唇の端に触れると、
 そのまま親指でゆっくり唇をなぞられる。


 距離が、ゆっくり縮まっていく。

 (え……ちょっと、待って……)

 灯里の背中がシートに沈む。
 逃げ場はない。

 夏の視線が、唇に落ちる。


 (……くる……)

 思わず、ぎゅっと目を閉じた。









 ――次の瞬間。

 ぱくっ。

 聞こえたのは、軽い音。



 「ん、うまい」


 食べられたのは灯里の手に持っていたエクレアだった。

 「あーーっ!それ私の!」

 「期待させちゃったな」

 「も、もう、なんなんですか!」

 夏はただ、楽しそうに笑った。

 今日ずっと近くにいて、運転していて見られなかった笑顔がすぐ側にあった。

 ーーー…

 灯里の自宅近くで車が停まる。

 それにしても、夏は今日どうして私を誘ったのだろう。たまたま夏にとって、都合がよかったんだろう……。

 彼の貴重な時間……、何か彼にとって意味があるものになれたらいいのだけど。

 灯里は、夏とのドライブを普通に楽しんでしまっていた。


 別れ際……
 
 「今日はありがとうございました。

  あの…、
  私……やっぱり“走り出したくなる時”って  
  ──Shoreline”です」

 灯里の“好きなもの”に対する真っ直ぐで眩しい笑顔に、夏は少し時間が止まった。

 「……悪くねぇな」


 灯里にとって、“Shoreline”が
 どんどんと特別になっていくーーー…