推しと奏でる、私たちの唄 〜ドS天才歌手の隣は甘くて難しい〜


 次の日ーー実家 Sounds Duck。
 奥のステージでは、大学生アルバイトで澪の恋人の陵がギターを弾き、その横で颯真が嬉しそうに歌っている。

 灯里は休みの日で、颯真を連れて、実家のライブハウスの手伝いに来ていた。

 そんな灯里に、作業がひと段落した澪が声をかける。

 「お姉ちゃん、shoreline のマネ……忙しそうだよねぇ。
 でもさ、推しに会えてるんでしょ? ちょっと羨ましい。」

 「やめてよ……。私は仕事で行ってるんだから。」

 不純な気持ちを持って仕事をするなんて、shorelineの皆さんに申し訳ない。


 「でもさぁ……お姉ちゃんが shoreline 好きになって、もう8年だよ?
 あの頃の颯真なんて、まだ赤ちゃんだったもんねぇ。」

 灯里は少しだけ目を伏せ、微笑む。

 「そうだね。
 あの頃は本当に……shoreline の歌に支えられてた。」

 澪は灯里の横顔を見つめながら、やわらかく言った。


 「支えてもらってきたお姉ちゃんが、
 今度は“支える側”になるなんてさ……なんか、いいね。」

 灯里は照れたように笑う。

 「そんな大それたものじゃないよ……
 でも、頑張りたいなって思ってる。」

 澪は「うんうん」と優しく頷いた。