推しと奏でる、私たちの唄 〜ドS天才歌手の隣は甘くて難しい〜


 スタッフとメンバーが揃い、全体共有ミーティングが行われていた。
 チーフマネージャーの杉本が資料を手に前へ出る。

 「では続いて、車のCM案件の説明に入ります。
 Shorelineの新曲書き下ろしと出演依頼が正式に来ました。テーマは“走り出しなくなる瞬間”です」

 室内の空気がほんの少し引き締まる。

 CMのための書き下ろし楽曲は、一ヶ月後のCM撮影までに完成させる必要があり、
 CMはShorelineと今注目の若手女優・水沢 心結《ミズサワ ミユ》さんとの共演のようだ。

 「以上が大まかな流れです。
 夏、曲の件どう?」

 「……分かった。」

 たった一言。

 だけど、会議室の空気が一気に軽くなる。


 ……たった一言なのに、
 みんなが安心してる……?

 「よろしく。」

 夏は短い言葉だけ残して部屋を出ていった。

 呆気に取られる灯里に、蓮と柊が話しかける。

 「皆もうあれだけで“ちゃんと仕上げてくる”って分かるんだよ。
 新曲ができる前提でスケジュール組まれてるのも、もう普通のこと。」

 「そうそう。
 夏が動けば、作品はちゃんと形になる。
 それがShorelineの当たり前なんだよね。
 ……プレッシャー、相当なはずなのに。」


 新曲ができなきゃ何も始まらないのに……
 それを背負ってる人なんだ、夏さんは。