推しと奏でる、私たちの唄 〜ドS天才歌手の隣は甘くて難しい〜


 「ただ私は、あなたの曲に救われた人間です。
  そして、今の私は夏さんご本人の“上辺”しか知りません。
  その上辺は好きだし、尊敬してます。
  正直かっこいいし、ドキドキもします…!
  でも──曲のほうがもっと好きです。
  だから、その邪魔をするつもりは全くありません!!」

 一気に言い切った灯里を見て──

 夏が吹き出した。

 夏が初めて素の笑顔を見せてくれた瞬間だった。


 「……っは、マジか。
  そんな返しで来るとは思わなかった」

 声を押し殺して笑いながら、ゆっくりと立ち上がった。

 「いや、悪い悪い。
  実はさ──前のマネージャーが、俺にガチ恋して私物まで盗んだんだよ。
  だから“距離保てるやつか”見極めてただけ。
  隠れたのも、キスしようとしたのも──」

 「からかってたんですか?!」

 「そう。
  お前の反応がおもしれーから、つい」

 キスされそうになった時の残像が蘇り、
 灯里の耳が真っ赤になる。

 「で──」

 急に距離を詰め、目を細めた。