推しと奏でる、私たちの唄 〜ドS天才歌手の隣は甘くて難しい〜


 翌日、灯里はひとり会議室で
 次打ち合わせの資料を整えていた。

 カチャ、とドアノブが回る音。

 振り返るより早く、
 扉が勢いよく開き──

 「灯里、隠れて。」

 夏が突然部屋に入ってきた。


 「えっ……!?」

 腕を引かれ、
 机の下に押し込まれる形で隠れることに。

 狭い空間で肩が触れそうな距離。
 目の前には夏の気配と体温。

 ち、近いっ!


 「あ、あの……私、隠れる必要ありました?」


 夏は一瞬だけ黙り──

 「……確かに。」

 くしゃりと笑う。

 その無防備な笑顔に、灯里の胸が熱くなる。

 しかし、空気は変わった。

 さっきまで無邪気に笑っていた夏の表情が、
 ふっと静かになる。

 その目は、さっきと同じはずなのに──
 どこか深く、吸い込むような色に変わっていた。


 近づく呼吸。

 夏の指先が、そっと灯里の頬に触れた。


 夏はそのまま、
 頬を滑らせるように指を移動させ──

 指先で、灯里の顎をそっと持ち上げた。

 逃げ場のない狭さの中で、
 ふたりの視線だけが強制的に絡まる。




 「こんな近くに、なれた。」