ライブハウスから徒歩5分にある実家の玄関を開けると、
祖父・政次《マサツグ》と祖母・千鶴《チヅル》が夕ご飯の準備をしていた。
「ただいま」
「おかえり、灯里。今日は早かったな」
「颯真~、手洗った?おやつ残してあるよ」
灯里の祖父母は、
ライブハウスの手伝いをしたり、家で颯真の面倒を見たり、食事の準備をしてくれたりと、大きな支えになっていた。
颯真は学校帰り、祖父母と家で過ごすか、
今日のようにライブハウスで宿題をしたりリハを見学したりして過ごすのが日常。
……こうして颯真がたくさんの大人に囲まれて安心して過ごせる場所があるから、私も今の仕事を頑張れている。
ーー颯真が寝るまで、灯里は颯真の部屋でたくさん話をする。
「ねぇお母さん。今日学校でね、音楽の授業で歌が上手いって、褒められたんだよ!僕歌うの大好き!」
「お母さんは苦手だなぁ」
「知ってるよ!たぶん僕はお父さんに似たんだね!」
「……うん、そうだね」
灯里はそっと微笑んだ。
颯真の父親は颯真が生まれてすぐに亡くなったので、颯真には父親の記憶はない。

