「結城 灯里《ユウキ アカリ》さん、どうぞ。」
面接室に入ると、数名の面接官が座っていた。
中央で資料を見ていたのが、“チーフマネージャー杉本”という女性だ。
「なぜこの業界を志望したのですか?」
「……小さい頃から、音楽がずっとそばにあって。
人の心を支えたり、前を向くきっかけになる力があると思っています。
私自身、音楽に救われたことが何度もあって……
今度は、支える側になりたいと感じています」
その言葉に、杉本だけが僅かに目を伏せた。
(……この子、やっぱり)
「育児と仕事の両立、大変ではありませんか?」
「息子は保育園に通っていて、一緒に暮らす家族のサポートもありますので、
基本的には勤務に支障はありません。
ただ、どうしても調整が難しい日が出ることもあると思います。
その分、事前の準備や段取りを徹底して、
限られた時間でも結果を出せるよう努めたいと考えています。」
灯里には、一歳になる息子・颯真《ソウマ》がいた。
——亡き夫との間に生まれた、大切な宝物だ。
「あなたはどういったマネージャーを目指していますか?」
灯里は一瞬だけ、胸の奥がきゅっと痛むのを感じた。
誰にも言えない後悔が、静かに息をひそめている。
「……アーティストの“心”に寄り添える人間になりたいです。
支えが必要な時に、ちゃんと気づけるような。
その人が安心して前に進めるように、
一歩後ろから、そっと背中を支えられる存在に——なりたいと思っています」
静かな空気の中で、杉本が優しく言う。
「きっと、なれるわ」
灯里はその言葉の意味を理解するのは、
もっとずっと先のことになる。

