Cherry Boy


結局あの後、花宮さんとは『同じ班の同級生』のまま距離を縮められなかった。

席替えで遠く離れた花宮さんの後頭部を一方的に眺め続け、最後の席替えでは後頭部を眺めることすら叶わないまま1年生が終わって、僕たちは2年生に進級した。

2年生ではもっと距離を縮められるかも、という僕のくだらない期待とは裏腹に、僕と花宮さんはクラスが離れてしまった。

僕のクラスにいる彼女の友達に、物を借りに来る花宮さんは1年生の時よりも髪が短くなってメガネが変わり、あのときよりずっと垢抜けて見えた。

彼女が教科書や書道セットなどを友達から受け取って戻っていく後ろ姿を、僕は何も言えずに見送ることしかできない。

短く切られた髪が揺れるたび、声をかけるタイミングを逃した自分の情けなさが針のように胸を突き刺した。

2年生も終わりに差し掛かり、僕がひとりで部活(ちなみに僕はテニス部所属)に向かっていると、僕の進行方向から花宮さんとその友達の小山(こやま)さんが自転車をこぎながら談笑しているのが見えた。

すれ違った時にふと聞こえた、花宮さんのあの一言を僕は一生忘れないだろう。

『私はイケメンというよりも、静かな感じの人が好きだなぁ』

僕は花宮さんたちが去ってからたっぷり10秒してから、「静か…?」と小さくつぶやいた。

学校にいる男子の中では『静か』カテゴリに分類される方だと思っているけど、花宮さんの言っている『静か』と、学校で区別される『静か』カテゴリの静かは、何か質が違うもののような気がする。

口数が少なかったり、目立たなかったりという単純明快な意味ではなく、おそらく彼女は凪いだ海のような『静か』を求めているのだろう。

口をとがらせて立ち止まっていると、「おい、お前何黄昏(たそがれ)てんだよ」と、テニス部の同級生――北瀬(きたせ)が僕の肩をたたいた。

「あーいや別に…」

口を濁すと、「好きな女か何なのか知らんけど、早くいかないと遅刻するぞ」と言って同級生が僕を追い抜かして走り去っていった。

「あいつ、勘鋭すぎだろ…」

僕は動揺をごまかすようにペダルを強く踏みながら、そうつぶやくのが精いっぱいだった。