「好き」
その言葉を発した瞬間、僕と花宮さんの間に薄くて重いベールが落ちたような気がした。
余命宣告を待つような重い沈黙に、「…は?」と小さな花宮さんの声が落ちる。
「好き」
やけくそでもう一度押してみると、「ごめん。」とばっさり切り捨てられてしまった。
「…なんで?」
カウンターパンチを一発食らっているのに、やめればいいのに、聞いてしまう。
「私は城瀬くんのことを恋愛対象として見れない。そんな状態で付き合うのは失礼だから」
2発目のパンチも綺麗に入り、僕は情けなくへらりと笑うのが精一杯だった。
「元気でね。」
今度こそ500円玉をカウンターに置き、花宮さんが『Cherry』を出ていく。
肩よりやや下ですっぱりと切り揃えられた彼女の髪が、チェリーレッドの間接照明に反射して鋭い艶を放った。
僕の隣に残された、花宮さんのカクテルグラスの中で放置されたマラスキーノチェリーに手を伸ばす。
甘く、赤く輝くチェリーは冗談みたいに甘く口の中でとけていった。



