Cherry Boy


「お邪魔しまーす…」

花宮さんが僕の隣の席に座ると、清潔な石けんのような香りが僕の鼻腔をくすぐった。

「これ、飲んでも大丈夫なんですか?」

上目遣いに僕を見てくる花宮さんに、平静を装ってうなづく。

「いただきます…」

グラスを傾ける、淡いピンクに染まった指先がチェリーレッドの間接照明を反射して輝く。

グラスの半分くらいを一気に飲み干した花宮さんが、「話ってなんなの?」と僕の顔を覗き込んできた。

「あー…」

グラスの中のさくらんぼをゆらゆら揺らして現実逃避を図る。

「ほんとに用ないなら帰るね。」

黒いスリムパンツから500円玉を取り出して、そのまま帰ろうと花宮さんが腰をあげる。

「待って!」

咄嗟(とっさ)に声をあげると、ちょうどドアノブに手をかけた彼女が僕をじっと見つめてきた。

花宮さんの澄んだ切れ長の双眸(そうぼう)が、驚きの色に染まっていく。