Cherry Boy


「いらっしゃーい」

『Cherry』の扉を開けると、浩さんがいつも通り僕を迎えてくれた。

「卒業おめでとう。お祝い」

席に座り、浩さんの背後の酒瓶の文字を目で追っていると、カウンターにカクテルグラスが置かれた。

「卒業祝いの『サクラサク』。涼くんの高校合格祈願も込めて、カンパーイ」

手早く自分の分のウィスキーを注いだ浩さんが、カウンターの奥から腕を伸ばす。

浩さんが僕のカクテルグラスに自分のグラスを軽くぶつけると、かつっと軽い音が店内に響いた。

グラスを目の高さまで持ち上げると、その中の鮮やかなピンク色がゆらりと揺れる。

中に沈められた、作り物のように真っ赤なマラスキーノチェリーをぼんやり眺めていると「涼くん」と浩さんが僕を呼んだ。

「やり残したこととか、ある?」

――『城瀬くんはやり残したこととかはないの?』

「誰だっけ…花宮さん?に告白するとかさ」

ウィスキーのグラスを傾けながら、浩さんが続ける。

「例えば今自分が死んだとして、墓場で後悔するであろうことは今やるべきだと思ってる」

花宮さんに告白しないで死んだら、僕は墓場で死ぬほど後悔するだろう。

僕はズボンからスマホを取り出し、クラスラインを立ち上げる。