「涼、遅いぞ!」
カラオケルームの扉を開けると、どす黒い色のジュースから口を離した日月がそう言い放つ。
「ごめんごめん」
矢島に『バチイケの私服で来い』と言われたので、服を考えていると遅くなってしまった。
「遅れた涼には君が代独唱の刑でーす」
矢島が手元のタブレットを操作し、勝手に君が代を予約する。
強制的にマイクを持たされたところでイントロが始まってしまったので、諦めることにした。
「きーみーがぁーよーはー…」
テンポが遅くて息継ぎする隙もないので、酸欠になりそうだ。
「…むぅーすーまぁーでー」
最後の力を振り絞って歌いきると、「ヤバいって涼」と矢島が僕の肩をつついてきた。
「84点か。意外と点数高いな」
点数画面を一瞥した山倉がぼそっとつぶやく。
「俺も君が代予約しよーっと…」
カラオケルームの隅っこでどす黒いドリンクを飲んでいた高橋が、タブレットに手を伸ばして君が代を予約し始める。
「きーみーがぁーよぉーはー…」
チャラついた見た目の高橋からはあまり想像がつかないが、意外と歌がうまい。
「やっぱ高橋、歌上手いよな」
日月がスマホのスピーカー部分を耳に当ててリズムを取りながら、高橋を褒める。
「あ、俺歌いまーす」
日月がタブレットを手に取り、流行りの男性アイドルの曲を予約する。
曲が流れ始めたところで、「お前それサビしか知らんのに予約したやろ」と、高橋がスマホを弄りながらぼそっと言い放った。
「バレた?やっぱサビまで飛ばそ」
山倉の手からタブレットを奪い取り、日月がポチポチと画面を操作する。
高橋がタンバリンやマラカスが入ったカゴを取りに行った隙に、隅っこにいた山倉の方に身を寄せる。
日月の歌に合わせて体を揺すっていると、耳障りなほど大きなタンバリンの音がカラオケルームに響いた。
右手にタンバリン、左手にマラカスを持った高橋がノリノリでじゃかじゃかと楽器を鳴らしている。
普段ならあまり気にならないはずだが、今回ばかりはその音が無駄に大きく聞こえた。



