「あの佐藤が泣くなんてなー」
証書をパカパカしながら、矢島が後ろから僕の顔を覗き込んでくる。
「鬼の目にも涙だよなー」
日月がそう言い放つと、「鬼なんか言ったらぶっ飛ばされんぞ」と、山倉が証書で後ろから日月の頭を叩く。
「卒業したからいーんですー」と、日月が口を尖らせる。
「あ、俺女子から卒アルの寄せ書きもらってくるわ」
矢島がさっさと僕たちの輪を離れ、女子に寄せ書きを要求し始める。
僕もこっそり輪から離れて、卒業アルバムとマイネームを片手に教室をうろつく。
「誰にもらおっかな…」
クラスの男子やテニス部の友達からはだいたいもらい終わってしまっているので、もらう相手がいない。
僕も女子にもらおうかな、と視線を巡らせる。
寄せ書きをもらいたい相手はたった1人しかいない。
「花宮さん、寄せ書き書いてくれませんか」
小山さんと久米さんがお互いの卒業アルバムにメッセージを書いているタイミングを見計らい、花宮さんに声をかける。
「いいよ。あ、私の卒アルにも書いて」
卒アルを交換し合い、花宮さんに先にペンを貸す。
「この辺に書くね」
花宮さんが僕の卒アルにさらさらとメッセージを書き込んでいく。
「書けた。ペンありがと」
卒アルとペンを受け取り、僕も花宮さんの卒アルを開く。
「ここに書くの?」
左側のページが友達からの寄せ書き、右側のページが先生からの寄せ書き。
そう分けているのは分かりきっているのに、左のページの空いたスペースを指さして、そう聞いてしまう。
「そう。」
女子ばかりの寄せ書きに僕が入ることに少し場違い感があるけど、僕は一言だけを書くことにした。
『2年間ありがとうございました。高校でも頑張ってください 涼』
書き終わってから、堅苦しかったかな、と軽く後悔する。
しかし1度書いた文字は消えないので、僕は花宮さんに卒アルを返した。
「ありがと」
卒アルを胸に抱えて笑った花宮さんが、僕に背を向ける。
マーカーを制服の胸ポケットにしまい、寄せ書きのページを開く。
『2年間ありがとう 高校でも頑張って! 花宮桜羽』
花宮さんが書いた、左上がりの綺麗な手書き文字を指でそっと撫でる。
ノスタルジーに浸って、アルバムの中の花宮さんを探す。
学年の集合写真、クラスの個人撮影、クラスの集合写真、修学旅行や合唱コンクール。
合唱コンクールでピアノ伴奏をしているときの真面目な表情や、修学旅行で小山さんと久米さんと浮かべた満面の笑み、集合写真と個人撮影の微笑み。
僕はアルバムを閉じ、最後の教室の様子を目に焼き付けた。



