Cherry Boy


河川敷に植えられているソメイヨシノは(つぼみ)のひとつもついていない。

僕は卒業アルバムとマイネーム、そしてハンカチだけを入れた黒いトートバッグの取っ手を握りしめながら、のろのろ学校に向かっている。

センチメンタルな気分で自分のスニーカーを眺めていると「おーい、涼ー」と誰かに名前を呼ばれた。

ばしっと容赦なく背中を叩かれ、振り向くと矢島が満面の笑みで立っていた。

「今日ラウワンで打ち上げだからな。バチイケの私服着て来いよ」

矢島が僕の方に腕を回してきたせいで、よろけてしまう。

「てかさ、今日卒業とかマジでありえん。」

もっと女子と話したかった、彼女欲しかった、とぼやく矢島の側頭部坊主を指でつつく。

「高校で頑張れよ」

「男子校やし無理やわ」

「マチアプ使えば可愛い彼女できるやろ」

僕がそう言うと、「ふざけんな!」と矢島が僕の髪をぐちゃぐちゃにしてきた。

頭を軽く振って、乱れた髪を整える。

「涼共学だろー。彼女できたら許さんからなー」

口を尖らせて、3歩先に行ってしまった矢島の背中をぼんやり見つめる。

しばらく歩いていると、3年間お世話になった校舎が視界に入ってきた。

川に架かる橋を渡り終えると、僕の髪がふわりと風になびいた。