「お、がきんちょ」
卒業式前日。
学校から『Cherry』に直行すると、春上さんがカウンターの奥から顔を出した。
「涼くん、入試ぶり」
カウンターに座った優香さんが、ホットサンドで口をもごもごさせながら笑う。
「がきんちょの学校はいつ卒業式?」
「明日です」
春上さんがフライパンにバターを塗り広げながら質問してくる。
「あたしも明日。偶然じゃん」
優香さんが制服のブラウスについたパンのかけらを払いながら、涼しい表情で手元のホットサンドに視線を落とす。
一重の切れ長の瞳を何となく眺めていると、「がきんちょ、卒業おめでとう」と春上さんの声が静かな店内に満ちた。
まもなく僕の目の前に、白い皿に乗ったホットサンドが置かれる。
バターが焼けたいい匂いがする。
いただきます、と小さくつぶやいてホットサンドを1口かじる。
さくっ、と小気味良い音とともに、白い皿の上にパンの茶色い雪がはらはらと落ちた。
香ばしいパンに卵の味、そしてとろりととろけるチーズ。
熱いチーズが舌に乗った瞬間、ひりついた感覚を感じてその部分がざりっと嫌な感触になる。
口の中で舌を遊ばせながらその感覚を消そうとしていると、「やべ、電話…」と春上さんがつぶやいた。
エプロンを脱ぎながら「店に顔出さないとだから、あとはおふたりで。金いらんから」とだけ言い残して、彼は『Cherry』を出ていった。



