「ありがとうございました。ナイトバーだけど、昼でも開いてるからいつでもおいで」
PayPayでハーブティー代の220円を支払い、凍てつく夜の街に一歩を踏み出す。
赤信号の向こうで、車が右から左へ、左から右へと流れていく。
赤信号によく似たテールライトの赤い色彩を目で追っていると、僕の前で1台の黒い自動車が停止した。
ふと顔を上げると、黒い自動車の助手席に、ぱりっとした白いシャツの上から刺繍が施された紺色のトレーナーを重ねている花宮さんが座っていた。
一瞬彼女と目が合ったが、悲しいことに彼女はふいっと左を向いて僕から目をそらした。たったそれだけのことなのに、胸の奥がひどく冷たくなった。
横断歩道は青信号に変わった。
何とか一歩を踏み出したけど、花宮さんが僕から目をそらした時のあの後ろ姿がいつまでも頭から離れてくれなかった。



