矢島たちが待つ席まで戻ると、日月が僕の背中を叩いてきた。
「渡して来いよ」
「恥ずかしいわ。光太郎が渡して」
羞恥から俯くと、記名欄に書かれた几帳面な『3年3組 花宮桜羽』が視界に入ってきてしまった。
「なんで俺が…?涼に『渡しとけ』って言われたんやろ」
関係ないはずの矢島になぜかばしっと背中を叩かれ、僕は花宮さんの教科書をしっかりと両手で持って一歩を踏み出した。
年の瀬に北瀬に言われた『受験も恋も頑張れよ』がリフレインし、左胸が静かに暴走し始める。
「あの…音楽室に忘れてたらしい」
左隣で単行本を食い入るように読んでいた花宮さんの目の前に回り込み、教科書を差し出す。
僕の声に気づいて顔をあげた花宮さんが、青空の写真の栞をページに挟んで目元に笑みをたたえる。
「ありがとうございます」
僕が両手で差し出した教科書を片手で受け取った花宮さんが、すぐに単行本に目を戻してしまう。
目元しかわからないその横顔は、いつも通り飄々としていて何を考えているかわからなかった。



