花宮さんと席が離れて2週間、県内私学の入試を1週間後に控えた3年3組。
休み時間にわざわざ花宮さんの席の近くに行き、矢島たちと話すという口実で花宮さんの姿を拝むのが僕のルーティーンだ。
「4時間目社会の振り返り提出やけど、やった?」
日月が矢島の伸びっぱなしの坊主頭に手を置いてそう言うと、「やってない。次保健やし、チャッピーに聞いて書く」と矢島が何事もないように言い放った。
「あいつ優秀やし、自分で考えるより楽だろ」
視線をふと扉の方にやり、ぼそぼそと外にしゃべった矢島が「あ、涼。お客さん」と僕を振り返った。
矢島に肩を押され、後ろの入り口まで誘導される。
そこに立っていたのは、僕の親友である北瀬だった。
「こいつが拾ったって。3組の誰かのやつらしい」
後ろにいる重い前髪が目にかかっている男子を指さし、北瀬が他人事のようにそう言い放つ。
「渡しといて、じゃ」
僕に一方的に音楽の教科書を押し付けた北瀬が去り際に親指をぐっと突き立てて去っていく。
そのしぐさが若干癪に障ったが、僕の腕の中にある、花宮さんの教科書の冷たさが現実を主張してくる。



