Cherry Boy


『Cherry』から出た瞬間、鋭い包丁のような切れ味のいい北風が僕を切りつけた。

ポケットに手を突っ込み、身を縮めながら優香さんの言葉をリフレインさせる。

――「おいしいものは真っ先に食べたいんだよね」

表通りに出ると、目の前の歩行者信号が青に変わった。

綱渡りのように白い部分を踏みながら横断歩道を渡り、渡りきったところで、スクールバッグの奥で眠っていたスマホを取り出す。

うちの学校には、使わないならスマホを持ってきてもいいという校則がある。

僕はルールを守って電源を切り、学校では使っていないけど、教室では先生の目を盗んで画面をのぞく光があちこちで瞬いている。

無意識でInstagramを立ち上げ、同級生たちのストーリーに惰性でいいねをつけていく。

ストーリー巡回を終え、ノートの表示画面に切り替える。

『もうすぐ入試とかありえん』『新しい服ほしい』

同級生たちのつまらないつぶやきを流し見ると、珍しく『@398._.Hanamiya』のノートが投稿されていた。

『勉強のモチベ上がんないよーえーん』

学校での凛とした(たたず)まいや控えめな雰囲気とは想像もつかないその文字列に、僕の口元が思わず緩んでしまった。