僕はベッドに置いていた目覚まし時計を本に挟み、ガラス窓を開けてベランダに出る。
墨汁のように真っ暗な空に、小さな白い光が明滅しながら薄い軌跡を描いていくのが見えた。
果てしない天球のキャンバスに、花宮さんの横顔を思い描く。
彼女が纏う、誰にも染まらない桜色のオーラや、ビターチョコレートのようなつややかな髪と、天体のような黒い瞳なのに、光に当たるとキャラメルをとかしたような色彩を放つ瞳。
その花宮さんが、僕に笑いかけてくる。
無意識に身を乗り出し、ベランダの落下防止柵をつかむと手のひらに冷たい感覚を感じた。
その感覚に思わず手を離して後ずさると、花宮さんが僕に背を向けた。
夢から覚めて現実を見ろ、と言わんばかりに僕の体に冷たい風が容赦なく吹き付けてくる。
「さむっ…」
僕は凍える手で扉を開けて部屋に入り、現実から目を背けるように後ろ手でぴしゃりとドアを閉めた。



