「淡雪ブレンドのホット、ください」

メニューを指さしてそう言うと、「かしこまりました。」と浩さんが微笑んだ。

浩さんが僕に背を向けて準備を始めていくのを見ていると、「君、中学生?」と背を向けたままの彼が疑問を(はな)った。

「はい。中学3年生です」

メニューの角の金属で補強された部分を指でなぞりながらそう答えると、「受験生か。勉強はどう?」とハーブの入ったガラスのポットを揺らしながら浩さんが大人な顔でまた質問してきた。

「まあ、微妙です…」

浩さんはそうか、とだけ(うなづ)いて、今度は食器棚からガラスのティーカップを引っ張り出した。

ここは家ではないし、何なら浩さんとは初対面だ。だけど、実家のような安心感――いや、実家よりも深い、海のような安心感がある。

「あい。淡雪ブレンド」

カウンターに置かれた、透明のガラスのティーカップの水面がゆらゆら揺れ、カウンターに淡い金色の影を落とした。

無意識に息を吸うと、レモンのさわやかな香りとジンジャーの大人な香りが鼻から入ってきて、全身をゆっくり満たしていくのがわかる。

ふうふうと息を吹きかけて冷ましながら、僕は透明のガラスのティーカップを持ち上げ、ハーブティーをそっとすすった。