Cherry Boy


「勉強してくる」

これは、夕食を完食してから食器を片付け終わった後に、必ず言う定型文のようなものだ。

「わかった。がんばれ」

クリスマス仕様の音楽番組を見ながら、母親が静かに僕に親指を突き立てる。

その親指から背を向け、僕は2階につながる階段を駆け上がって自室の扉を閉めた。

眠くなるほど暖房が効いていたリビングとは正反対に、床から寒い空気が()い上がってくるような寒さを感じる。

学習机に置いていた、日焼けして()せたような色合いの白のリモコンを手に取る。

『暖房』ボタンをタップし、温度を23.5℃に調整した。

そのあと僕は、顔と手を出した亀のような形で布団にくるまった。

ストーリーとノートだけ確認するから、と心の中で言い訳をつらつら並べながら、ズボンのポケットに入れていたスマホを取り出す。

同級生たちのつまらないストーリーやノートの中で、ひときわ輝いているものがあった。

もちろん花宮さんのものだ。

ストーリーには『2025年終わってほしくない』というシンプルな文字とともに、青っぽい電飾が施されたクリスマスツリーの写真。

ノートには、『アリアナ・グランデ Santa Tell Me』と、『彼氏つくってクリぼっち卒業したい』というシンプルな文だけ。

「彼氏…?」

そうつぶやいてさらに布団の中で身を丸くすると、布団の中の暗闇にぼんわりと男子生徒の横顔が浮かんだような気がした。

冬休み直前、僕が図書室で勉強しているときに花宮さんとしゃべっていたあのブレザーの後輩だ。

僕の知らない顔で笑う彼女の姿が、その後輩の男子生徒と重なる。

スマホをベッドに置いたまま、布団から出て勉強机の前に座る。

勉強机の横に置いている本棚から理科のワークを取り出して、シャーペンを突き立てたが、手は凍りついたように動かなかった。