2階の自室にあがって応答ボタンをタップすると、『あけおめことよろー!」とテンションの高い声がスピーカーから響いた。
「まだ11時だろ」
そう返答すると、『ほぼ正月だからいいだろ』と、北瀬が適当な返答をした。
『てか年越しの瞬間、お前絶対寝てるやろ。花宮さんの夢見ながら』
「…ざけんなよ」
図星すぎて、弱々しい返答になってしまった。
『図星だな。てか涼、後悔しても知らんからな』
普段、北瀬は僕のことを『お前』と呼ぶ。『涼』と呼ぶのは稀だ。
『あと3か月で卒業だろ。多分涼、花宮さんと高校分かれると思う。去年英語のテストで90点台取ってたし』
何で知ってるんだよ、と思ったが、北瀬は去年花宮さんと同じクラスだった。
その回想と『あと3か月で卒業』という現実から生まれた正体不明の感情が僕の胸をちくりと刺した。
『後悔するだろ、あん時告っとけばーって』
「…フラれたらそれはそれで後悔するし」
そう言い返すと、『やらない後悔よりやる後悔だろ』とさらりと打ち返される。
確かに告白しなかったら後悔するかもしれないけど、フラれるのは怖い。
ジレンマに陥って唇をなんとなく舐めると、『受験も恋も頑張れよ。じゃ、よいお年を~』と北瀬が通話を切ってしまった。
北瀬とのトーク画面をぼんやりと眺めていると、スタンプがトーク画面に生成された。
最近テレビに引っ張りだこの男性芸人が親指を突き立て、『がんばれ』と赤い文字で書かれている。
そのスタンプにリアクションだけで返信し、スマホを閉じる。
顔を上げると、部屋と外界を隔てる部屋のガラス窓に、複雑な表情の僕が映った。



