ドリンクが出てくるまでの間、本を読もうとカウンターに『古都琴子~』と『汝、星のごとく』を置くと「あ、汐見さん!」と優香さんが身を乗り出してきた。
「でも中学生くん、本とか普段読まないタイプっしょ?こんな分厚いの、初心者にはちょっとキツくない?」
「あー…あはは、まあまあ…」
適当にごまかしていると、「わかった、好きな人の影響っしょ!」と優香さんに図星をつかれた。
「そんなわけ、ないですよ」
「絶対そうやん!中学生くんの好きな人、誰?クラスメイト?先輩?後輩?」
身を乗り出して、マシンガンのように質問攻めしてくる優香さんから反射的に距離を取ると「スカーレット・ワルツ」と浩さんの落ち着いた声が店内によく通った。
「あ、優香ちゃん。少年は今、クラスメイトの女の子に初恋をしてるらしいんだよ」
カクテルグラスを目の高さまで持ち上げたところで、浩さんから特大の爆弾が落とされた。
「え、マジ?初恋⁉教えて教えて‼」
カクテルグラスを木のカウンターにたたきつけるように置いた優香さんが、またものすごい勢いで身を乗り出してきた。
その勢いに圧倒されつつ、花宮さんとの出会いやなんやらをかいつまんで説明すると「そっかー。」と優香さんは落ち着いた様子でそう言ったが、目が子供のようにキラキラしている。
その瞳から逃げるように俯き、手元のカクテルグラスに視線を落とす。
グラスの縁には砂糖がふりかけられていて、緑色の葉がついた小枝が縁に寄りかかっている。
カクテルグラスを目の高さまで持ち上げると、ルビーのような深い赤とさわやかな香りが僕の鼻腔を擽った。
そっとカウンターにグラスを置くと、酸素を求めて浮上する生き物みたいに炭酸の泡が水面に立ち上って消えていった。



