「いらっしゃーい。あ、クリスマス限定ドリンクあるから、飲んでいってよ」
『Cherry』の扉を開けると、グラスを洗っていた浩さんがカウンター越しに微笑む。
「どんなんですか?」
「スカーレット・ワルツとスノー・セレナーデ。どっちにする?」
見た目がろくにわからないものを頼むのはリスキーだな、と逡巡していると、「スノー・セレナーデはこんなんでーす」と女の子の声が響いた。
声の主の方に振り向くと、そこにいたのは白いカクテルグラスを持った、大人びた雰囲気の髪の短い女の子がいた。
「こっち座っていいですよ」
「あ、じゃあ、失礼します…」
その女の子の隣の席に腰を下ろすと、ふんわり柑橘系の匂いが漂った。
「あたし、春上優香です。中3です」
一重で切れ長な瞳に、控えめに存在する鼻と唇。肌は健康的な色で、わずかに開かれた口からは八重歯がのぞいている。
黒いタートルネックに黒いズボン、小さなパールがあしらわれたネックレスをつけた彼女は、僕と同い年には到底見えなかった。
「あ、へー…僕も中3です」
もごもごとそういうと、「中学生くんだ。よろしくー」と手をつかまれて上下にぶんぶん振られた。
――初対面の人に対しての距離感バグってるけど、女子はそういうものなのか?
頭の中にクエスチョンマークが大量発生したところで、浩さんが「この子、俊也の娘だってさ」と話題を挟んできた。
「俊也…って春上さんの?」
この前『Cherry』に遊びに行ったとき、カクテルを飲んで酔っ払っていたあの春上さんが言っていた『優香』というのが、今僕の左側にいる彼女のことだろう。
「うん。」
僕の質問に従順に頷いた優香さんが、「この前父さんが酔っ払って、中学生くんに絡んじゃったんだよね?まじごめん」と頭を下げてきた。
「全然大丈夫…です?優香…さん?」
「ため語でいいよ、同級生だし。呼び方はご自由で」
「じゃあ、優香さんで…」
そう言って俯くと、「少年、クリスマスドリンクはいらない?」と浩さんが身を乗り出してきた。
「スカーレットなんちゃらください!」
意気揚々とそう注文すると、「じゃ、ちょっと待っててな」と浩さんが僕たちに背中を向けた。



