放課後。
月曜日・水曜日・金曜日の放課後、図書室が開放されているので、そこで勉強しながら花宮さんの一挙手一投足を観測するのが僕のルーティーンだ。
「関係代名詞嫌い…」
ガシガシと頭をかきながらそうつぶやいて頭をぐるりと左に向けると、やはりそこには真剣な表情で本を選んでいる花宮さんの姿があった。
しかし英語は僕の苦手分野だ。あきらめてワークを閉じて席から立ち上がると「桜羽先輩」と男子生徒の声が耳朶を打った。
その男子生徒が着ているのは、微妙な色合いのブレザーに緑っぽいチェック柄のスラックスだ。
うちの学校は、僕たちの1つ下の代から制服がブレザーになった。ということはおそらく下級生だ。そして、その男子生徒の話し方から察するに吹奏楽部の後輩だろう。
「なに?」
「久しぶりですね」
「あー、だね」
その男子生徒は花宮さんよりも背が高く、見上げるような形で彼女がさらさらのストレートヘアを揺らしながらふわりと笑う。
その笑みは、僕では到底観測できないものだ。
僕は花宮さんと男子生徒がいる本棚の裏側に回り込み、本を物色しているふりをしながら花宮さんと男子生徒の話を盗み聞く。
あまりいい趣味とは言えないけど、話を聞いておかないとなんだか不安になってしまう。
「オーメンズ・オブ・ラブやるんや。いいなぁ」
「高校でできるんじゃないんですか?」
「さあ?」
花宮さんと男子生徒の話を耳で全力で受信しながら、僕は近くの本棚にあった適当な単行本を手に取った。
タイトルもろくに見ないでページを開く。
図書室の本のあの独特なにおいに顔を埋めるようにして、きれいに印刷された文字列に目を向ける。
しかし視線が上滑りしてろくに読み進められない。聴覚をシャットアウトしたいのに、嫌でも花宮さんと男子生徒の声が耳に入ってきてしまう。
僕は手元の本を本棚に戻し、広げていたワークと筆箱をさっさとまとめて逃げるように図書室をあとにした。



