ドアノブを回して扉を開けると、「いらっしゃーい」と浩さんの声が僕を迎えた。
「こんにちは。また来ちゃいましたけど、よかったですか?」
スクールバッグを椅子に置いて、上着をハンガーにかけると「ぜんぜん。大歓迎だよ」と、カウンターの奥に座る、赤ら顔の春上さんが鷹揚に笑った。
「あれ、春上さんってスタッフじゃないんですか?」
ふと沸いてきた疑問を春上さんにぶつけると、彼は「この前はキッチンを使わせてもらってただけなんだよ」と手に持った華奢なカクテルグラスを揺らした。
カクテルグラスで揺れる青い液体が、深い茶色のカウンターに複雑な色を落とす。
その色彩に強く魅入られてしまった僕は、「モクテル、1つください」と思わず口を開いていた。
「少年は何がいい?」
何もわからないまま注文してしまったせいで、口ごもってしまう。
「あー、浩さんのおすすめのやつで」
「はいよー。ちょっと待っててな、少年。」
浩さんが僕たちに背を向けて、冷蔵庫から透明な瓶を2本取り出した。
そのまま慣れた手つきでカクテルグラスを綺麗に拭き上げ、グラスにガラガラと氷を入れる。
そのまま滑らかな手つきで、カクテルグラスの底にルビーのような深い赤色の液体を注ぎ始めた。
そこにそっとオレンジ色の液体を注ぐと、オレンジ色に深い赤色が溶け合って広がった。
夕焼けのような色彩を閉じ込めたグラスを、浩さんがことんと僕の前に置いた。
「ノンアル・カシスオレンジ。初恋の味だぞー」
浩さんが僕を冷やかすようににやりと笑い、頬が羞恥で赤くなっていくのがわかる。
「は、初恋ぃ?」
すっかり頬を赤くして上機嫌な春上さんが身を乗り出してきた。
「こいつは今な、クラスメイトの女の子に初恋をしてるらしいんだ。澪さんから聞いた」
「おもしろそうじゃねーか、聞かせてくれよー、がきんちょ」
カウンターの奥の方に座っていたはずの春上さんがいつの間にか僕の隣に来て肩をぐらぐら揺らす。
されるがままになりながら、僕はかいつまんで花宮さんとの出会いのシーンをしゃべることにした。



