Cherry Boy


「今日は中和の実験をします。」

理科室に集められた3年3組の生徒たちはまじめに前を向いて井倉の話を聞いているが、左隣に花宮さん――初恋相手がいる僕はそれどころじゃない。

「BTB溶液を入れた塩酸に、1滴ずつ水酸化ナトリウムを落として色の変化を観察して、液を顕微鏡で観察してレポートを書いてください!」

前に座る山倉(やまくら)から回ってきた実験のプリントを後ろに回し、今度こそ前を向いて井倉の話をしっかり聞く。

が、花宮さんがいる左隣だけがかっと熱いような気がする。

「じゃあ、4人班を作ります!田中(たなか)さんのところの4人で1班、新川(にいかわ)さんのところが2班…」

井倉の手元と動向を目で追っていると、「花宮さんのところの4人で班を作って」と先生がぐるりと僕たちのところに丸を付けるようなジェスチャーをした。

「一緒の班~」

小山さんと花宮さんが手を叩きあって喜んでいる。

その様子をこっそり眺めていると、井倉が「リーダーと副リーダー、サブと副サブを班の4人で決めて」と次の指示を飛ばした。

「桜羽、リーダーやって」

小山さんがぐるりと首を巡らせて花宮さんを見たが、彼女は「無理!」と素早く拒否した。

「じゃあどうしよう?わたしはリーダー以外で希望出そっかな」

小山さんが4人班の班員に話題を振ってくれたが、僕もリーダー以外ならなんでもいい。

頼みの綱、ともう1人の男子メンバーである山倉の方を仰ぎ見ると、結局彼もリーダー以外なら何でもいいらしく、話が振り出しに戻ってしまった。

お互いに目配せしていると、「役割を教えてくださーい!」と井倉の声が理科室に響いた。

「待って、決まってないんやけど」

「それな。え、もうじゃんけんでいい?」

じゃんけんの結果、リーダーが僕で副リーダーが花宮さん、サブが山倉で、副サブが小山さんになった。

「リーダーと副リーダーは前の机から実験道具を取って、その他の人は自分の机の上を片付けてください!」

僕はリーダーなので、前の机に向かった。その2、3歩後ろを花宮さんがついてくる。

2つのトレイに乗った実験道具をひと班で使うらしい。

ビーカーやスライドガラスが載っている、軽そうな方を花宮さんに渡し、僕は薬品の瓶やBTB溶液が入った方を両手でしっかりと持った。

自分の班の机に薬品の瓶の入ったトレイを置いて、顕微鏡を取りに行こうと方向転換すると、「顕微鏡は私が取りに行くから座ってて」と花宮さんの声が僕を引き留めた。

「あ、じゃあ、お言葉に甘えて…」

背もたれのついていない冷たい椅子に腰を下ろすと、短く折られた花宮さんの紺色のプリーツスカートが僕の前で(ひるがえ)った。