「ふう…」

僕が小さく吐き出した息は、白く染まって夜に溶けていった。

塾帰り、横断歩道の信号が青になるのを待つ。

通知を一通り確認し終わった僕はスマホから目を離し、ふと左を見やると細い路地裏の奥で何かが淡い赤に光っていた。

その赤信号のような淡い赤の光に、えもいわれぬ引力を感じた僕はスマホを制服のスラックスに突っ込み、横断歩道に背を向けた。

ギリギリ人がすれ違えそうなほどの路地裏を、足音を殺して歩く。

路地の先は行き止まり。ぐるりと首を巡らせると、そこには木の扉とさくらんぼのネオンサインがあった。

僕は木の扉に耳をぴったりくっつけて店内の音に意識を集中させる。

木の扉越しで、こもったサックスとトランペットのムーディーなBGMが聞こえてきた。高らかなトランペットの音と比例して、僕の体温も上がっていく。

マフラーに包まれた耳と頬が燃えるように熱くなる。

唇をなめた僕は、木の扉から身を離した。意を決して、木の扉を開ける。