「ただいまー」
「おかえり。今日塾あったっけ?」
「ない」
野菜を切っていた母親が顔を上げて、にこやかに微笑みながら僕に話しかけてくる。
その話題に、当たり障りのない返答をしながら、スクールバッグをおろしてアウターを脱ぐ。
「というか、あんた受験生でしょ。塾で勉強してきなさい」
野菜を切る手を止めて、母親が咎めるようにこちらを見る。
「えー。寒いからやだよ」
「あんたこの前の英語のテスト35点だったでしょ。塾ですみませんすみませんって謝られたんだから、ちゃんとしてよ」
「うっさいなー、わかってるよ!」
給食で使った箸をシンクに投げ入れるように放ると、「あんた、何回言ったらわかるの!物を投げないで!」と母親のキャンキャン声が鼓膜を突き刺した。
「へいへい、自習すりゃいーんでしょ、自習すりゃ」
母親が何か言ったような気がしたけど、僕は無視してスクールバッグをひっつかんで玄関に向かい、スニーカーに足を通した。



