「やー、ビブリオバトルの本まじで決まんねー」
「わかる」
5時間目はビブリオバトルの準備で、本が必要なので同じクラスの男子と図書室に来ていた。
適当に本棚を物色しつつ、でも僕の視線はばっちり花宮さんの方に向いている。
彼女は何を借りるんだろう。
「汐見さんもいいけど、去年紹介したから違う作家さんのにしよっかな~」
「あーね。私は武田綾乃さんにする」
「『響け!ユーフォニアム』の人やんなー」
何度か映画化されていたりアニメになっているから、『響け!ユーフォニアム』という名前だけはうっすら知っている。
無難な本を適当に借りて、適当に紹介しようと短編集を手に取る。
「おーいいじゃん。借りてこいよ」
隣で立ち読みしていた男子が僕の肩を小突く。
「そうするわー」
ざらざらした手触りの透明なカバーに包まれた本を片手で持ち、カウンターに向かう。
また無意識に花宮さんの方に目を向けると、彼女は下級生の男子と談笑していた。
無意識に短編集の表紙を指でなぞると、指先にざらついた感覚が伝わる。
そのざらつきはまるで僕の心みたいだった。



