「おはー。今年もよろしく」「同じクラスでよかったー!」「いよいよ受験生かー。絶望だわ」
3年3組の教室に入ると、春の空気に浮かれた声があちこちから飛び交っていた。
でも、僕の足取りは重かった。
テニス部で仲良くしていたやつとは悉くクラスが離れ、しかも担任は佐藤。女子生徒を中心に、だいぶ嫌われている初老の男性教師だ。
教室に張り出されていた座席表をちらっと確認し、窓際の一番端の席に腰かける。
孤独をごまかすように、僕はカバンを膝において中身を漁り、荷物を探しているふりをすると、続々と新しいクラスメイト達が教室に入ってきた。
「梨香とクラス一緒なの何年ぶりやろ?」
そのよく通る声は、たとえどんな雑踏の中でも気づけるだろう。
勢いよく顔を上げるのは不自然なので、5秒ほど遅れてからカバンを膝に置いたまま顔を上げる。
そこには予想通り、談笑しながら教室に入ってきた花宮さんと小山さんがいた。
憂鬱なグレーに染まっていた心は、彼女の声だけで一瞬で恋そのものの淡い桜色に染め上げられてしまう。
「あ、芽衣亜ちゃんも同じクラスや。おはよー!」
自分の席に荷物を置いた花宮さんが、ぱたぱたと久米さんのもとに駆け寄る。
久米さんは、部活前によく花宮さんや小山さんとしゃべっているポニーテールの女子だ。
楽しそうに2人としゃべっているその様子に、磁石のように僕の視線が吸い寄せられる。
僕は花宮さんのきっちりと束ねられたポニーテールの毛束の中に、ひとつぴょこんとはねた細い毛束を見つけた。
その毛束になってみたいなぁ、とバカみたいなことを思いながら僕は机に突っ伏して、春休み中に少し短くカットした髪をちりちりと指先でいじった。



