Cherry Boy


静か、静か…

2年生が終わり、3年生になるまでの春休みの間、僕の頭にはずっとその2文字がぐるぐるリフレインしていた。

小さな画面上に出現するモンスターを銃で撃ち殺しながら、ふとため息が漏れる。

僕は宿題がないことをいいことに、ゲームをやりこんでいるけど、きっと彼女は3年生に向けて勉強をして、垢抜けようとしているのだろう。

その横顔を勝手に想像していると、部屋に父親が入ってきた。

「あそこの××公園、桜が咲いてるらしいから一緒に行こう」

()という響きに一瞬緊張してしまったけど、僕は何とか平静を装って「行こう」と返事した。

レジャーシートやテーブルを車に乗せて、コンビニでおやつやら何やらを揃えようということになった。

車の後部座席の心地よい揺れに揺られ、春のうららかな日の光を受けてうつらうつらしていると、いつの間にかコンビニについていた。

駐輪場には銀色の自転車とチョコレート色の自転車が止まっていた。

なんかあの茶色の自転車、見たことあるなぁ、と思いながら僕がコンビニに入ると、そこには一番会いたくて会いたくなかった彼女――花宮さんがいた。

青いボーダー柄の白い薄手のパーカーに、黒い長ズボン。誰かと電話しているのか、スマホを手に持っている。

「なんかいる?…飲み物は自費で持ってきてよ、梨香(りか)。」

花宮さんが言っている『梨香』というのは、おそらく彼女の友達である小山さんのことだろう。

呆然とその様子を眺めていると、冷凍ケースから雪見だいふくを取った花宮さんがぐるりとこちらを振り向いた。

僕は軽く会釈をしてその場からそそくさと退散する。

お菓子コーナーまで移動して、会計を済ませる花宮さんをこっそり見ていると「友達か、あの女の子」と父親がにやりと笑った。

「いや、1年の時に同じクラスやっただけ…そんな話したことない」

言い訳がましく釈明して、ポテチをかごに入れると「父さんはうれしいよ、お前が初恋相手を見つけて」と、父親がまたにやにやしていた。

「そういうんじゃないし…」

鯉のように口をパクパクさせていると、父親は買い物かご片手に「まあ、そういうことにしといてやるわ」 と、まるで全部お見通しだと言わんばかりに笑った。

もう何も言い訳する気が起きなかったけど、僕は冷凍ケースの中から雪見だいふくを取ってこっそり父親の買い物かごに入れた。