名無し

一歩、足音が鳴った。


近づいてくる。


それだけで、喉がひゅっと鳴る。


目を逸らしたいのに、逸らせない。


逃げたいのに、椅子に縫い付けられたみたいに動けない。


サングラスの奥は見えない。


それでも、見られていることだけはわかる。


指先が、私に触れる直前。


私は反射的に目を閉じた。


相良 彗は、私の頬をぐいっとつかみ、自分の方へと寄せた。


掴まれている場所が、じんじんと痛む。


相良 彗は「黒田 澪だよな?」単調な声でそう聞いてきた。


恐怖からか声が出ず、ただ、頷くことしか出来なかった。


「黒田 玲。黒田 弥子。それぞれ、500万ずつ。」


そいつは、淡々とそう言った。