名無し

腹をくくって言うしかない。


立ち上がり、息を吸って叫んだ。


「言います...!!私のことを」


思ったより声が響いた。


周りは驚いて静かになり、相良 彗も少し目を見開いてこちらを見ていた。


「私は、もともと...いらない子でした。」


そう言うと、誰かが息を飲んだ音がした。


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私の両親は、愛のない結婚でした。


いわゆる、政略結婚です。


お互いに愛人がいて、家で顔を合わせることは、ほとんどありませんでした。


そんな間に生まれたのが、私です。


望まれていない子だったので、両親からはよく、「邪魔」「死んでよ」そう言われて育ちました。


周りの大人たちは、それを見て見ぬふりをしました。


そんな中で、一人だけ、私のそばにいてくれた人がいました。


明るくて、誰にでも声をかける子で、私とは正反対の性格でした。


毎日のように、私と遊んでくれました。


理由は分かりません。


ただ、そこにいました。


でも、ある日を境に、その子は突然、来なくなりました。


同じ頃、母方の祖父が急死しました。


それまであった援助も、すべてなくなりました。


その時、神様も、大人も、みんな私が嫌いなんだと思いました。


それから両親は、あちこちから借金をして、そのすべてを私に残したまま、消えました。


だから私は、その借金を返すために、ここにいます。



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食堂に重い空気が落ちた。


誰も何も話さない。


その沈黙を破ったのは相良 彗だった。


「そうか。」


低く、短い声で一言。


そして、「この話はこれで終わりだ。」と言った。


すると、さっきの青少年が目の前に来て、思いっきり頭を下げて「すみませんでした!!」と言った。


いきなりのこと戸惑っていると、「軽率でした。出すぎたことを言いました。」と涙目でこちらを見ていた。


「気にしてないので大丈夫です。」と言うと、パァっと明るい顔になった。


すごくしょんぼりしたような顔で言うから、つい、許してしまった。


青少年が、グイッと顔を近づけて「さっきの話、マジでびっくりしました!!」「名前なんて言うんですか!?ていうか、出身は!!」と勢いよく話してきた。


私が責めない人とわかったからなのか、懐いてきた。


少し、距離が近いと思い、離れてもまた近づいてくる。


どうしよう。


嫌だなんて言ったら空気悪くしちゃうよね。


困っていると、青少年の頭に拳が降ってきた。


その拳は、相良 彗のだった。


そして、「困ってんじゃねーか。もうちょっと距離を考えろ。」と叱った。


青少年は、「はい...。」と言って、食器を持って行った。


相良 彗は、私の方を向き、「彗って呼べ。そして、いつでも、俺を頼れ。」と言って、去っていった。


名前で呼んでいいの...?


頼ってもいいの...?


近くで見ていた光稀を見ると、こくんと頷いて笑ってくれた。


そっか。いいんだ。


嬉しさの余韻が、心に響いてじんときた。