名無し

変な空気を変えるように、「お名前はなんですか?」と聞く。


逃げた。話題を。


わざとらしかったかな。


何かを察してくれたのか、笑顔に戻り自己紹介をしてくれた。


「僕は、光稀って言います!!普段は彗の側にいますけど、今日から澪さま担当になりました!よろしくお願いします!!」


光稀さんはにこりと笑ってそう言った。


何か引っかかる。


“様”?


私は、誰かにそんなふうに呼ばれるような人間じゃない。


「なんで"様"なんですか?」


そう聞くと、だって、彗の大事な人だと聞いたので。と答えた。


あの男の大事な人?


「そ、そんなことないです!!絶対に光稀さんのほうが年上ですから様もつけなくていいですし、タメ口でいいです!!」


光稀さんは、そうかと言って、少し考えるとなにか思いついたように顔を上げた。


予想外の言葉だった。


「じゃあ、澪ってよぶ代わりに僕のことも光稀って呼んで!!」


え。と声が出た。


そんなことできない。



そんなの、許されるはずがないのに。


光稀さんがはっとしたように「もう時間だ。よろしくね!!」と言って、部屋から出て行った。


扉が閉まっても、あの明るさだけが耳に残った。