名無し

抱えられた腕の中は、想像以上に硬かった。


骨の感触がある。


「ほんとに、借金は消されますか...?」


声が震える。


「嘘をついて何になんだよ。」


すみません。と反射的に口からこぼれる。


相良 彗は、私を抱いたまま歩き出した。


何も言わない。


足音だけが、やけに大きく聞こえる。


廊下は静かで、私の存在だけが、ここでは異物みたいだった。


逃げなかったのは、逃げられなかったから。


腕の中は、思っていたよりも硬くて、思っていたよりも温かい。


それが、いちばん怖かった。


やがて、扉の前で足が止まる。


相良 彗は、私を下ろさなかったまま、低く言った。


「今日から、ここがお前の場所だ。」


返事は、できなかった。


鍵の音がした。


それだけで、胸の奥が、きゅっと縮む。


扉が開く。


私は、鳥籠の中へ、足を踏み入れた。