名無し

舌が動かない。


そいつは、黙って私を見下ろしている。


"待ってください"


それだけ言えばいい。


そうすれば、すぐに終わる。


「...私の人生ではらいます。」


口からこぼれた。


言った直後、何を言っているんだろうと思った。


また、自分を犠牲にしてしまう。


目の前の男は、ふっと笑った。


「人生?安いなぁ。でも、まぁ、嫌いじゃねぇ。」


頬を掴む力が強くなった。


爪が皮膚に食い込む。


ぎりぎりと痛みが強くなる。


男と目が合う。


体が震える。


でも、目は離さない。


離したらだめな気がして、睨みつけた。


「お前の目、いいな。」とにやりと笑みを浮かべて言った。


「借金は俺が消す。代わりに、お前は俺のもんだ。」


思っても無い言葉だった。


私に価値なんてないのに、借金を消すの?


「助かった」という感情より、「怖い」という感情が強い。


反論する権利なんて、最初からなかった。


相良 彗は顔を近づけ言った。


「勝手に死ぬなよ。」