○Bar・夜24時頃
唯を送り届け、バーに戻ってきた湊。
旭「おかえり、唯ちゃん大丈夫そう?」
湊「いつから名前で呼ぶほど親しくなったんだ?」※絶対零度の真顔
旭「まぁまぁ・・・お客様とのコミュニケーションは大切だろ?てか、湊こそ唯ちゃんと知り合いなの?お姫様抱っこで登場した時は頭でも打ったのかと思ったよ」
湊は何も答えずウイスキーのロックを一口煽る。
湊の脳裏には唯の百面相が浮かびつい口が綻ぶ。
旭「お前がそんな顔するなんて・・・!」※驚きと恐怖が入り混じる顔
湊「してない」
湊はスッと顔を戻して旭を睨む。
旭「なんで隠すんだよ」
旭(こいつがこんな顔するの初めてだよな・・・いや、前にもこんなこと・・・えっもしかして!)
旭「ねぇ、唯ちゃんって・・・傘の子、だったりする・・・?」
湊「!?」
湊は驚いた顔で旭を見上げる。
湊「なんで・・・」
湊(唯のことは誰にも話したことはない・・・態度にも出していないはずだ・・・)
湊の脳裏に過去の光景が思い浮かぶ。
墓地の前で傘をささず雨に打たれる湊(大学3年生)。そんな湊にそっと傘を差し出すセーラー服を着た唯(中学1年生)。
その時のことを思い出し懐かしいような切ないような気持ちになる湊。
旭「おいおい、親友舐めんなよ〜。」
旭の声に現実に戻される。
旭「大学3年、だったっけ?湊ん家に女性物の傘置いてあってさ・・・

○過去回想
湊と旭が大学3年生の頃。
旭モノ『”あの日”から湊は何もかもを失ったように塞ぎ込んでいた・・・食べることに無関心になり睡眠薬がないと眠れなくなって見ているこっちがヒヤヒヤする。関心がなくても腹には何か入れて欲しくてよくご飯を届けに来ていた』
旭「お邪魔しまーす」
玄関の傘立てに女性物のピンクの傘が置いてあるのを見て首を傾げる旭。
部屋に入って湊に問いかける。
旭「湊、玄関の傘って・・・」
湊「旭、俺デザインの会社を作ろうと思う」
旭「は?」
湊「俺にしかできないことだと思うから」
旭モノ『吹っ切れたように俺の目を見て告げる湊に、久しぶりに本当の湊が戻って来たようで心底安心した』
旭「なら、腹が減っては戦はできぬだろう?」※したり顔
湊「ありがとうな」
旭モノ『表情は固いが声に宿る温もりに涙が出そうになる』
旭「それよりさぁ、玄関の傘誰の?彼女でもできた?」※ニヤニヤ顔
少しの沈黙の後湊は答えた。
湊「・・・人から、借りた」
湊は唯のことを思い出し少し頬が緩む。
旭(微笑んだっ!)
旭に雷に打たれたような衝撃が走る。
あまりの衝撃に旭が固まっていると湊がボソッとつぶやいた。
湊「返せないかもしれないけどな・・・」
その切なげな表情に旭まで苦しくなった。
旭「長生きしてればまた会えるだろ。いつか返せるといいな」※優しい笑顔
湊「・・・あぁ、そうだな」※微笑み
旭(こんな顔久しぶりに見たな・・・それ引き出したの俺じゃないってのがちょっと悔しいけど)
旭は湊の変化に安堵のため息が溢れた。


○現在に戻る
旭「その辺りからお前雰囲気変わったじゃん。つきものが取れたような・・・吹っ切れた感じ。」
旭(まぁ、あれ以来滅多に笑わないけど・・・)
湊モノ『確かに唯との出会いは俺を大きく変えてくれた・・・唯に出会えたから俺は・・・』
旭「そっか・・・あの時の子か・・・傘、返さないとね」
湊「ふっ・・・唯は覚えてないみたいだけどな」※自嘲的な笑み
旭「傘渡したら思い出すと思うけどね・・・それに、もう逃す気ないって顔してるけど?」
湊「なんの話だ」
湊は不敵に笑む口元を戻しグラスを煽る。
旭「お手柔らかにしてあげなね・・・」