〇夜デート
 夕暮れ時。船着き場を歩く2人の影。
?「気を付けて」
?「うん」
 船に乗りこむため、手を差し出す男。その手元だけが写される。
 夕日が差し込み、2人の姿があらわになる。
 船に乗りこんだのは、瑛那と智早。
智早「すげぇ、豪華すぎ!」
瑛那「貸切クルーズ最高~!」
 船内には、食事も用意されている。

 小さい回想。
 当たりの風船を引き当てたのは瑛那だった。
智早「外れた時はもう終わったと思ったけど」
智早「誘ってくれてほんとありがとう」
 食事をしながら、嬉しそうな智早。
瑛那「迷ったんだけど…ふたりきりで過ごすなら、やっぱ智早くんがいいなって」
 瑛那が言うと、目を丸くする智早。
智早「…やばい、不意打ち。うれしすぎてにやける」
 真っ赤な顔を隠しながら言う智早。
 そんな智早を愛おしく思い、微笑む瑛那。

 食事を終え、船外へ。ちょうど日が沈むころ。
瑛那「海、キレー!」
智早「ロケーション、最高だな」
 船外に、並んで座る。
 瑛那のスマホが鳴り、ディレクターからのメッセが届く。
 『智早くんは、瑛那ちゃんのどこが好きなのか、聞いてみて!』というメッセ。
瑛那(罰ゲームかよ…!むりみが過ぎるぜこの合宿…!!)
 俯きながら、智早に問う瑛那。
瑛那「あの…こんなの聞くの、ほんとハズいんだけど…」
瑛那「あ、あたしの、どこが…その…」
智早「瑛那のどこが好きかって?」
瑛那「っ!!……そ、そう」
智早「あはは、顔真っ赤!」

智早「あの雨の日からだよ。中学の時の」
智早「…あの頃さ、父親が亡くなってすぐの頃で」
瑛那「あ…そう、だったんだ」
瑛那(お父さんがいないのは知ってたけど…亡くなったのは知らなかった)
智早「親戚と揉めたり、いろいろあって…結局転校することになって。弟妹のことも心配だし、俺なりにすげぇ気張ってた時期だった」
瑛那「…うん」
智早「そういうときってさ、ちょっとしたことでプツッと糸が切れる、みたいなのあるじゃん」
瑛那「うん、わかる」
智早「あの日がまさにそれで。雨に打たれて、鍵も忘れて…なんか、限界きちゃって。精一杯生きてんのに、なんでだよって」
智早「でも知らない女の子が声かけてくれて…家に入れて、着替え貸してくれて、カップ麺食べさせてくれて」
智早「あの日から…俺にとって瑛那は、特別なんだ」
 気恥ずかしくなり、目をそらす瑛那。
智早「まぁ、きっかけはソレだけど」
智早「瑛那の…いい意味で気張らないとこも、好きなことに真っ直ぐなとこも…ダンスしてる瑛那も、歌ってる瑛那も…ぜんぶ、ちょっと困るくらい、好きなんだ」
 そう語る智早の横顔を眺める瑛那。

瑛那(なんだろ。恥ずかしいんだけど、それ以上に…)
瑛那モノ『胸が痛い』
『智早くんの真っ直ぐな気持ちが、やけに胸に沁みる』

瑛那「くしゅんっ」
智早「あ、寒いよな。上着貸すよ」
瑛那「で、でも、智早くんが寒くなっちゃうじゃん」
智早「じゃあ、待ってて」
 船内に戻る智早。大きなブランケットをもらってくる。
智早「一緒に入ろ」
 2人でひとつのブランケットにくるまる。
瑛那「…あったかい」
智早「ね。あ、そろそろ沈むよ」
 波音を聴きながら、夕日が水平線に落ちる様子を、しずかに眺める2人。
瑛那モノ『やっぱり…智早くんとこうしてるのは、あんまりいやじゃない』
瑛那(…ちがうか)
瑛那モノ『智早くんといるとあたし、なんか、しあわせなんだ』

智早「…欲を言えば」
智早「瑛那を、独り占めしたかった」
智早「でも…ファイナルのライブを見て、それは無理だって思って」
智早「だからせめて、瑛那が立ってる世界に、俺も立ち入りたかった」
 智早の言葉をしずかに聞く瑛那。
智早「瑛那の背中を見送るのは、もうやめる」
智早「同じステージには立てなくても、せめて同じ世界にいたい。だから俺も、この世界で頑張るよ」
 智早の声が心地よく、おだやかな気持ちで、目を閉じる瑛那。
智早「瑛那?」
智早「顔赤くない?」
 瑛那のひたいに手を当てる智早。
智早「…あっつ!!熱あんじゃん!!」
瑛那「…たしかに、ぼーっとする…」
 目を回し、意識を失う瑛那。


〇夢の中
懐かしい夢を見た
小学校のころ、あたしは同級生からちょっと浮いてて
パパが外国人だってこととか、見た目のちがいとか
いまなら受け流せるよーな言葉に
あのころは傷ついて 壁をつくって ダンスに逃げてた

智早くんは転校生なのにすぐに人気者になって
そんな智早くんと仲良くなったおかげで
あたしも自然と輪の中に入れるようになって

ありがとうってずっと言いたかった
感謝してるのは 助けられてるのは
ずっと あたしのほうなんだ


〇夜デートの翌々日、瑛那の部屋
瑛那パパ「ん。お熱下がったネー。よかった!」
 パパに看病される瑛那。
瑛那パパ「なにか食べたいものある?買ってくる?」
瑛那「大丈夫。ありがとね、パパ」
 ハグをして、部屋を出ていくパパ。
 パパが置いていったホットはちみつのマグカップに口をつける。

瑛那モノ『あのあとあたしは40度まで熱が上がり』
『病院にかかって、そのままマネージャーの車で帰宅』
『“恋リア部”は2日目の夜でリタイアとなった』
『3日目の告白では、結局だれも成立しなかったらしい』
 マグカップを机に置く。
瑛那(向き合わなきゃって、思ってたけど…)
 横向きに倒れるように、ベッドに沈む瑛那。
瑛那モノ『ちょっとほっとしてる自分がいる』
『いろんなこと、目まぐるしくて』
『まだ自分がデビューしたってことも信じられないのに』
瑛那(智早くんの気持ちに答えたい自分と、変わるのがこわい自分が、いる)
瑛那モノ『たぶん、答えは決まってる』
『でもそれを口にしてしまうのが、こわい』

 部屋のドアがコンコンとノックされる。
瑛那パパ「瑛那?チハヤがお見舞いに来てるんだけど…どうする?」
 はっと起き上がる瑛那。困惑しながらも、
瑛那(会わないのも、へんだよね…)
瑛那「部屋、入ってもらっていいよ」
瑛那パパ「オーケー」
 心配そうな顔で部屋に入ってくる智早。
智早「大丈夫?」
智早「熱は下がったって聞いたけど…」
瑛那「うん。このとーり」
 瑛那がガッツポーズを見せると、ほっとしたように笑う智早。
智早「調子悪いの気付かなくて、ごめんな」
瑛那「智早くんが謝ることじゃないよー」
智早「ディレクターが、ぜひリベンジしてほしいって」
智早「俺も『絶対リベンジ告白します!』って言わされた」
瑛那「ひえぇ~……!」
瑛那「できればもう出たくない…」
智早「そっか。俺は案外楽しかった」
 快活に笑う智早。目が合い、思わずそらしてしまう瑛那。
 智早は、困ったように笑う。
智早「…やっぱ、答えは出ない?」
瑛那「あ…」
瑛那「考えては、いたんだけど…」
瑛那「まだ、LUMICAとしての仕事も、手いっぱいで…」
瑛那「なんか、いろんなこと、実感わかないまま進んでて」
瑛那「それで…」
 クッションを抱き締め、顔を埋める瑛那。
瑛那「こわいの。気持ちに答えたら、どうなっちゃうのかって」
瑛那「だっていま、頭の中、智早くんでいっぱいで」
 瑛那の言葉に、目を丸くする智早。
瑛那「このまま進んだら、何もできなくなりそうで、こわい」
 瑛那の言葉を噛みしめるように、智早が答える。
智早「たしかにそれは、こえーわ」
瑛那「ふぁっ」
 そして、瑛那を抱き締める智早。
智早「焦らせるようなことして、ごめん」
智早「いまはその言葉もらえただけで、俺、じゅーぶんだ」
 身体を離し、至近距離で瑛那を見つめる。
智早「焦らず、待つよ。瑛那が心から、俺を必要だって思えるまで」
智早「考えてくれて、ありがとな」
 ほっとしたように笑う、瑛那。
 しかし次の瞬間。
 智早は、瑛那にキスをした。
瑛那「な…っ!!ままま、待つって、たったいま、言わなかった…?!?!」
智早「返事は気長に待つよ。だいじょーぶ、キス以上のことはしないから」
瑛那「~~~~~~~!!!」

瑛那モノ『“キス以上”にキスは含まれるんでしょうか…?!』
『百瀬瑛那の前途多難は、まだまだ続きそうです』