瑛那モノ『無事に“LUMICA”としてデビューを果たし、冬休み中はメディアの取材三昧』
『まさに寝る間もないようなスケジュール』
『そして、冬休みが明け――』

〇学校、屋上、昼休み
女友人1「瑛那、今日来ないのかな?」
女友人2「仕事のスケジュールがずれて、今週いっぱいは韓国にいるらしいよ」
女友人1「えー、すご!」
女友人2「見た?“Re’gene(リジーン)”とのコラボ動画」
女友人1「見た見た!“Re’gene”のSEIとのペアダンスやばかった」
女友人2「瑛那のビジュもよかったよねー。芸能人の彼氏とかできちゃったりして」
 友人たちの会話を離れたところで聞きながら、スマホでSNSを開く智早。
 男性グループのメンバー・SEIとのコラボ動画を、冷めたような目で見下ろす智早。


〇空港→事務所へ移動
瑛那モノ『LUMICAのメンバーは、予定より2日遅れてようやく帰国』
プロデューサー「みんなお疲れー、今日は解散で」
LUMICA「お疲れさまでしたー!」

 事務所の廊下で、“Re’gene”のSEIに声をかけられる瑛那。
SEI「ENAちゃん」
瑛那「SEIさん!お疲れさまです」
SEI「おつかれ~。なんかコラボ動画もう1本って言われて。いまから撮れる?」
瑛那「だいじょうぶですよー!」

 事務所の一角で、動画撮影をする。
 録画した動画を確認するため、顔を寄せスマホを覗きこむ2人。
 その様子を、暗い表情で見つめる人物がいる。(=智早)
 そこへ、事務所社長が登場。
社長「あら、残ってるの2人だけ?」
瑛那「社長!お疲れ様です」
SEI「おつかれっす。LUMICAはあれっすよ、今日帰国したばっかで早々に解散してました」
社長「あぁ、そうだったそうだった」

社長「せっかくだから2人に紹介しちゃお」
社長「ウチに新しくできた俳優・タレント部門の、所属第1号クン」
 社長の背後から姿を現す智早。
智早「高月智早です。よろしくお願いします」
 突然のことに、固まる瑛那。


〇事務所、非常階段
智早「びっくりした?」
瑛那「びっくりもびっくり、ひっくり返ったよ!」
 軽い回想。
社長『“GLOW UP GIRLS”ファイナルの観客として来てた子なんだけど。あまりにイケメンで思わず声かけちゃって。まさかENAの同級生とはねー!』

瑛那「言ってくれたらよかったのに」
智早「いろいろ急に決まったから。宣材写真も急遽今日撮ることになって」
瑛那「あ…だからその格好なんだ」
 めかしこんだ格好の智早。
瑛那(いつもと雰囲気違うから…直視しづらい)

瑛那「ちっ…智早くんも、芸能界にキョーミあったんだね!」
智早「あー…興味はないよ、べつに」
 言いながら、瑛那のほうに身を乗りだす智早。
智早「でも、百瀬がデビューしたら、俺も追いかけようって決めてた」
 困惑する瑛那。
瑛那「な、なんで…」
智早「わかんない?」
 さらに近づき、壁ドンのような体勢になる。
智早「同じマンションの同級生ってだけじゃ、瑛那(・・)は俺のこと見てくれないじゃん」
智早「(髪をかきあげながら)瑛那の気持ちがこっち向くまで待つつもりだったけど、あんなの見たら(・・・・・・・)――ガマンの限界きちゃった」
 瑛那の頬にそっと手を当てる智早。
智早「瑛那。今度こそ、俺を見てよ」
 目が回りそうなほど顔を赤くする瑛那。
瑛那「ごっ……」
瑛那「ごめんなさぁい!!」
 叫びながら身をひるがえし、ダンスで鍛えた柔軟性と身のこなしで壁ドンを抜け出し、逃げる瑛那。
 逃げる瑛那に視線をやりながら、少し嬉しそうな智早。
瑛那(智早くんのあんなカオ…はじめて見た…!!)
 顔を真っ赤にして、走り去る瑛那。


〇翌朝、自宅マンション
瑛那モノ『翌朝――』
 瑛那宅の階のエレベーター前で待機している智早。
智早「おはよー、瑛那」
瑛那「お…オハヨー」
 ドギマギしながらもエレベーターに乗りこむ。
 沈黙。
瑛那「……あの……」
瑛那「き、昨日のアレって…」
瑛那「ち、智早くん流のジョークかなにかで…?」
智早「いや、本音だよ」
瑛那「っ!!」
瑛那「そ、ソレはつまり…」
瑛那「好き的な…ソレ?」
智早「そうだよ」
 「そうだよ」に合わせて、エレベーターが『ピンポーン』と鳴る。
 くらりと目を回す瑛那。
 登校しつつ、会話。
智早「アピッてもアピッても全然なびかないんだもんな、瑛那」
智早「どうせ『系統が違う』とか『妹みたいなもん』とか思ってたんだろ」
瑛那「そんなこと……」
瑛那「ある……」
智早「やっぱな」

瑛那(たしかにずっと面倒見てくれてたけど)
(智早くんがハイスペ男子すぎて逆にアウトオブ眼中だった)
(でもなんであたし?)
(モテる智早くんがあたしを好きになる要素なんて、皆無じゃね?)
 モヤモヤに埋もれ、いたたまれなくなる瑛那。
瑛那「あ、あ、あたし、先行きます!」
 走り出す瑛那。顔は紅潮している。
瑛那モノ『どんな顔すればいいのかわからない』
『しばらく距離をおいて、状況を整理して…』


〇昼休み、屋上
瑛那モノ『――と思ったのに。』
 昼休みの屋上。
 瑛那、智早、智早の男友達2人、瑛那の女友達2人が集合している。
 みんな弁当やパンを頬張っている。
智早「…そんなわけで俺、瑛那の彼氏になりたいんだけど、どうすればいいと思う?」
 ぼう然とする友人たち4人と、いたたまれない表情の瑛那。
男友達1「いろいろ思考が追いつかん…お前も芸能人になるの?マジ?」
男友達2「好きな子追いかけて芸能界入るとか、強者すぎん?」
 ちょっと引いてる男子2人。
女友達1「あ、でもさ、瑛那ってたしか…」
 スマホで動画を再生。
 瑛那が理想の相手について語る動画。
動画の瑛那『好みのタイプは…うちのパパより強い人です!』
『パパ、元ラガーマンなんです!』
 みんなでスマホを覗きこむ。
女友達1「この条件クリアできる人いる?」
女友達2「ラグビー南アフリカ代表とか…?」
瑛那「そ、そこまでは求めてないけど…」

男友達1「まー、智早の気持ちは、なんとなく気付いてたけどな」
男友達2「だな。智早が自分から話しかけるのって百瀬くらいだし」
女友達1「そうなの?」
男友達1「ノートとるようになったのも百瀬に貸すためだろ?」
男友達2「前は智早、『ノートなんかとらなくても1回聞けば覚える』っつってたもんな」
男友達1「ファイナルのライブも1人切なげにステージ見てたし」
男友達2「そうそう、たぶん百瀬が遠くにいっちゃうのが寂しくて…」
智早「もういい、やめろ」
 みんなの会話を聞きながら、手のひらをXの形に合わせてぷるぷる震える真っ赤な瑛那。
瑛那「も…許容オーバーっす…!」
女友達1「よちよち」
女友達2「恋愛初心者には刺激が強かったね」
 予鈴が鳴り、片付けながら。
女友達1「まー応援はするけどさ。基本うちらは瑛那ファーストだから」
女友達2「瑛那も環境変わったばっかだしね。じっくり攻めなよ」
智早「りょーかい」
 女友達2人に肩を叩かれ、やや不満げながらも肩をすくめ納得する智早。

 屋上を出て雑談しながら階段を下りる4人。
 ぼんやりと智早の背中を眺める瑛那。
瑛那(智早くんは、なんで、そこまで…)
 考え事をしていたせいで階段でバランスを崩す瑛那。
 「わっ」という小さな悲鳴で智早が振り返り、瑛那を抱きとめる。
智早「大丈夫?」
瑛那「う、うん!ありがと」
 体勢を戻す瑛那に、智早が耳元で囁く。
智早「周囲固めるよーなことしてごめん」
瑛那「っ…」
智早「だけどもう、止まれないんだ。だから、瑛那もちゃんと考えてほしい」
 顔を真っ赤にしながら、うんうんと頷く瑛那。


〇場面転換。忙しそうな2人の様子。
瑛那モノ『とりあえず頷いたはいいものの――』
『LUMICAデビュー後のスタートダッシュは順調で』
『デビュー曲のMV配信が始まると、再生回数が1日で100万回を突破』
『歌番組への出演ラッシュで、学校を休むことも多かった』
『智早くんは“全国高校生ミスターコン”への出場が決定』
『SNSではインフルエンサーとのコラボ企画に次々参加』
『その動画のひとつがバズって、SNSのフォロワー数はすでに1万人超えという人気っぷり』
『クラスも違うので、ほとんど顔を合わせないまま1週間がたち――』


〇事務所、ロビー
 事務所の共有スペースにて、LUMICAは打ち合わせ待ち。
 そこに智早がやってくる。
瑛那「あ…」
智早「おす」
智早「(LUMICAの他メンに)お疲れ様です」
瑛那「な、なんか久しぶり!」
智早「ね。前髪わけてるのかわいい」
瑛那「へ?!あ、ど、どうも」
智早「いま休憩中?」
瑛那「う、うん。あと、打ち合わせ待ち。今日は振り入れしてて」
智早「そっか」
 そこへ、事務所社長兼智早のマネージャーがやってくる。
社長「智早、智早!決まったよ、番組!」
社長「なんとあの“恋リア部”よ!!」
 驚く2人。
瑛那モノ『“恋リア部”――中高生に人気の恋愛リアリティショー』
『2泊3日の恋愛合宿(・・・・)を通して、本当の恋を見つける…というコンセプト』
『出演者は全員高校生で、事務所所属のタレントやインフルエンサーが多い』
智早「(企画書に目を通しながら)…これってもう出るの決定ですか?」
社長「出ない理由なんてないよ!出演するだけで知名度爆上がりする番組よ?!」
智早「…だめもとで頼むんスけど」
智早「瑛那と一緒に出演できませんか?俺、瑛那のことが好きなんで」
 飲んでたお茶をふきだす瑛那。
 後方でこっそり聞いていたLUMICAメンバーが悲鳴をあげる。