「あーもう!とりあえず、ルールを決めよう!」
半ばやけくそでクッションを殴りながら、声を張り上げる。
「「「はい!」」」
従順な犬のように私の周りに座ったチョーク男子たちの表情は目をキラキラさせたり、飼い主とはぐれてしまった犬のような表情だったりと三種三様だ。
「えー、まずは…」
私はスクールバッグからルーズリーフの袋と筆箱を取り出して、ローテーブルにその2つを置いた。
「俺は毎日六花ちゃんのベッドで一緒に寝る!」
金髪がキラキラした目で提案するが、「却下。小さくなって床で寝てください」とばっさり切り捨てる。
ルーズリーフに『添い寝厳禁』と書いて顔を上げると、「本読み放題!」とまた金髪がキラキラした目で提案する。
「絶対にやめてください」
ルーズリーフに『本読み厳禁』と書くと、「六花のものは触らない」と落ち着いた声が耳朶を打った。
天の助け、と白メッシュを仰ぎ見ると、「いや、俺が言った」と赤メッシュが小さく手を上げた。まさかすぎる。
「えー、翔真ってそういうこと言うんだー。いがーい」
笑いがにじんだ金髪の発言に、「失礼でしょ」と白グラデが彼の頭をたたく。
「はーい。あ!」
嫌な予感しかしない。また変なことを言い出すんだろうという猜疑心の目を金髪に向ける。
「六花ちゃんの独占は禁止!」
「はぁ⁉独占って何‼」
ペンを放り出して金髪の方に身を乗り出すと、「その通りとしか言いようがないけど、六花ちゃんの独占は禁止ってこと」とどや顔で解説された。
「なるほどー。」
「なるほどね。」
なぜほかの2人が納得しているのかはよくわからないけど、私は諦めてルーズリーフに『私の独占厳禁』と書いた。
こんな小説みたいなこと書くのは、私の人生で前にも後にもないだろう。
小さくため息をつくと、「おいおばさん、1人でしゃべっててキモイで」と唯日が勝手に部屋に入ってきた。
そうか、さっき唯日にチョーク男子の姿が見えたのは『ちょっとしたバグ』なんだ…
「あー、はいはいキモくてごめんなさーい」
適当に唯日をあしらって部屋から追い出すと、私は俯いてルーズリーフを見つめた。
『添い寝厳禁』『本読み厳禁』『私の独占禁止』
――どうやら、もう引き返せないところまで来てしまったみたいだ。



