環「おっすー!入って入って!」


中学時代にも何度か紫遊と遊びに来た部屋は、相変わらずだった。部屋には環と紫遊がいたが、久しぶりの再会を喜ぶという雰囲気はそこにはなかった。


澪「久しぶり。で、どうしたの?何かあったの?」

環「いや……事務所が今までの動画残していいよって言ってくれて、懐かしくて最初っから見てたら……」


カチカチとマウスをクリックする。


環「ね、これ見て」


PC画面には、何ヶ月か前に撮った2人の歌ってみたの動画。そのコメント画面だった。


『女の子の声誰!?めっちゃキレイな声!!』

『声優さん?フリー音源にしてはいい声すぎる』

『聖歌隊だっけ?それみたい!』


環「この曲、女の人のセリフ入りでカラオケ音源じゃ声なかったからって事で、澪がセリフ入れてくれたじゃん?それが今誰だ誰だってなってんの」

澪「マジかー……」

紫遊「悪い意味じゃない事が救いなんだが、環が気にしててな」

環「DMいっぱい来ててさ……。声綺麗だから、何か歌ってみてよって」

澪「私が!?!?」

紫遊「所属になった、って動画をあげて更新終了の予定なんだ。もし期待に応えるなら、今このタイミングだろうって話してたんだ」


澪自身がスクロールしてみても、2人へのコメントに対してちらほらと……すぐに目につくだけの量の澪の声に対するコメントが来ていた。


環「仲良しの子とは言ってあるから……もし澪さえ良ければ、何か1曲だけ歌ってみてほしいなー……なんて思って……。ダメ?」

紫遊「選曲は任せる。あとは澪の許可さえおりれば、環が寝ずに編集するらしい」

環「オレ達がここまで行けたの、マジで澪のおかげだし!会える時間減るかもだから、最後ぐらいカッコつけさせて!頼むっ!」


初めて話しかけられた時のように、パンっと手を合わせられた。そうか……もうこんな時間が少なくなるかもしれないのか。分かってはいたが、知らないふりをしていた……。でもこうも現実を突きつけられると……。


澪「……なんか、寂しくなるね」


胃がキュッと締めあげられる。
学校でももうなかなか会えなくなるだろう。最悪、芸能人御用達の学校へ転校も有りうる。

澪は、そっと口を開いた。