「望月さん、パーカスの片づけ手伝ってあげて」
スクールバッグに譜面とペンケースを入れていると、トランペットパート所属の同級生 瀬名拓海が私の肩をやさしくたたいた。
「あ、うん!」
どぎまぎと答えると、「よろしく」と瀬名くんがニッと笑ってティンパニを運び始めた。
たたかれたところがいつまでもぽかぽかと温かくて一瞬戸惑ったけど、何とか平静を装ってパーカスの子の方に移動する。
「友梨佳ちゃん、グロッケン運んでくれない?」
薄いトランクのような楽器を指さして、パーカスの女子が懇願してくる。
「はーい」
私はキャスター付きの黒い台に置かれていたグロッケンの取っ手をつかんで持ち上げ…ようとしたけど重たすぎてなかなか持ち上がらなかった。
両手に力を込めて何とかグロッケンを台から降ろすと「重いなら代わろうか?」と、誰かの落ち着いた声が聞こえてきた。
瀬名くんなのかも、とつまらない期待を抱いて振り向くと、そこにいたのは瀬名くんじゃなくて同じパートの御園隼人くんだった。
「い、いい!大丈夫!」
好きな相手に頼るのは無理だけど、あまり絡みのない同じパートの男子に頼るのはもっと無理だ。
虚勢を張ってグロッケンを運ぼうとしたけど、重すぎてバランスを崩しそうになった。
「大丈夫じゃないじゃん。俺代わるから、望月さんはシンバル運んでて」
私が持っていたグロッケンを手渡すと、御園くんは軽々グロッケンを持って準備室の方に行ってしまった。
非力認定されたようでイラっとしたけど、その気持ちは心の奥にしまいこんで、私は準備室に背を向けた。
シンバルの冷たい金属に触れた瞬間、さっきのぽかぽかが少しだけ遠くなった気がした。



