○朝・初の部屋
起き上がってぼーっとする初。
初「……」
初(なんかすごくいい夢を見たような気がする……)
ふわぁ、と欠伸をしながら昨日の出来事を反芻する初。
初(お兄ちゃんが抱っこして運んでくれて、それから――)
3話の回想カット。
颯希が初を抱き上げて運ぶシーン。
ラストのキスしたかしてないかわからないシーン。
初「!?」
初(待って、私ったらなんて都合の良い夢見てるの!?)
思い出して赤面する初。
初「やだ、恥ずかしすぎる……」
初モノローグ【そもそもあれは、夢だったんだよね――?】
○ダイニング
朝食の準備をしている颯希。
颯希「あ、おはよう」
初「おはよう……。あの、お兄ちゃん」
颯希「ん?」
初「昨日さ、私のこと運んでくれたよね……?」
恐る恐る上目遣いで尋ねる初。
颯希「うん、初寝ちゃったから」
初「うわー、ごめんなさい……」
颯希「いやいや」
初「私、何か変なこと言ってなかった……?」
恥ずかしそうに訊ねる初。
一拍置いて答える颯希。
颯希「……んー」
初「えっ!? やっぱり変なこと言った!?」
焦る初にクスッと笑う颯希。
颯希「いや、何も言ってなかったよ」
初「ほ、本当に?」
颯希「ただ、二十歳になっても俺がいないところでお酒飲むのは禁止ね」
初「えっ? はい……?」
颯希「ウイスキーボンボンもやめとこうか」
初「ねぇ、やっぱり変なこと言ってたんじゃないの??」
何言ったんだー? と疑問符を浮かべながら朝食の準備を手伝う初。
初のことを見つめる颯希。
〜昨日の回想〜
初に名前を呼ばれ、思わず顔を近づける颯希。
唇まであと数センチというところで寸止め。
はあ、と溜息を吐いて初から離れる。
「――ねぇ、初。本当に俺のこと義兄だと思ってる……?」
眠る初の頬に優しく触れる颯希。
「民法736条直系姻族の間で婚姻はできない。だけど親の連れ子同士はこれには当たらないから、結婚できるんだよ――俺たち」
〜回想終了〜
○3日後。昼・大学
キャンパスの庭で自分で作ったお弁当を食べる初。
初(友達と学食でワイワイ食べるのも楽しいけど、たまに一人で外で食べるのも好きなんだよね〜)
一人の時間を満喫する初。
初(お兄ちゃんと二人きりって緊張してたけど、実際最初の一日以外一緒にいられてないな。なんだかお兄ちゃん、ずっと忙しそうだし……)
ご飯を食べている最中も書類や新聞を読んでいる颯希のカット。
初「弁護士のお仕事って全然想像つかないけど、すごく大変なんだよね……」
初(何か私にできることないかなぁ)
自分のお弁当を見てハッと気づく。
初(そうだ! お兄ちゃんにお弁当作ってあげるのはどうだろう!? 前に忙しい時は昼ご飯も食べられないって言ってたし)
○翌日朝・キッチン
二人分のお弁当のカット。
初「よし! できた!」
お弁当を見て満足げな初。
颯希「ごめん、初。今日は早くてもう出ないといけないんだ」
バタバタと忙しそうな颯希。
初「えっ!? 朝ごはんは?」
颯希「ごめん、帰ってから食べる」
かなり急いでる様子で出て行ってしまう颯希。
ポツンと残される初。
初「……お弁当、どうしよう」
初(仕方ないか……もったいないし、二つとも私が食べよう)
残念そうにしながらお弁当の蓋を閉める初。
テーブルに置かれた書類に気がつく。
初「あれ、これ忘れてない?」
チラッと時計を見る初。
初(今日は2限からだし、間に合う。届けてあげよう!)
○午前・颯希の勤める法律事務所前
スマホを見ながら事務所を見上げる初。
初「ここだよね……?」
初(お兄ちゃんの事務所初めて来たけど、本当にカフェと近いんだな)
事務所から道路を挟んで目の前に初のバイト先のオウルカフェがある。
初(電話しても出ないしメッセージも既読つかないし、勝手に来ちゃったけど良かったのかな……)
勢いで来てしまったが急に不安になる初。
持っているトートバッグの中にはお弁当が入っている。
初(お弁当も持ってきちゃった……。書類とお弁当だけ渡してサクッと帰ろう!)
○事務所の玄関
キョロキョロと周りを見回す初に、メガネをかけた女性が話しかける。
メガネをかけた女性はパラリーガルの丹羽美奈子。
美奈子「どうかされましたか?」
初「あっ、私鷹宮の家族の者なんですけど」
美奈子「鷹宮先生の?」
初「はい、書類を届けにきました……」
美奈子「! 少々お待ちください」
奥の部屋で電話をかけている颯希。
美奈子「鷹宮先生、お電話中ですのでこちらでお待ちください」
初「いえ、大丈夫です。こちらを渡していただけますか」
おずおずと書類とお弁当を渡す初。
美奈子「お会いにならなくてよろしいのですか?」
初「忙しそうですし大丈夫です。よろしくお願いします」
ぺこっと会釈して事務所を出て行く初。
キリッとした凛々しい美人弁護士・二条ひばりとすれ違う。
ひばりは初に視線を向けるが、初は気づいていない。
ひばり「……丹羽さん、今の方は?」
美奈子「鷹宮先生のご家族の方です。書類とお弁当を届けに来てくださったんです」
ひばり「鷹宮先生の? ……そう」
意味深な表情のひばり。
○事務所の中
電話を終えた颯希に美奈子が話しかける。
美奈子「鷹宮先生、先程ご家族の方がこちらを届けに来てくださいましたよ」
書類とお弁当を見せられて驚く颯希。
颯希「え? もしかして、初が……?」
美奈子「妹さんですか?」
颯希「だと思います。妹がさっきまで来ていたんですか?」
美奈子「ええ、ついさっき帰られましたけど」
それを聞いて急いで駆け出す颯希。
美奈子「鷹宮先生!?」
急に駆け出した颯希に驚く美奈子。
颯希の後ろ姿をじっと見つめるひばり、何か思うところがありそうな表情。
ひばり「…………」
○事務所から少し離れた道
一人歩いている初。
颯希「初!」
振り向く初、颯希が走って追いかけてきたことに驚く。
初「お兄ちゃん!?」
颯希「ごめん……ありがとう」
初「わざわざ来てくれたの? 良かったのに」
颯希「この書類、わざわざ届けてくれたのに申し訳ないけど、もう使わないやつなんだ」
初「えっ」
颯希「俺が置きっぱなしにするから勘違いさせたね。ごめん」
初「いや、そっか。それなら良かったぁ」
ホッと安堵する初。
颯希「良かった?」
初「だって大事な書類だと思ったから急いで届けなきゃって思って。でも使わないものなら良かった」
ニコッと微笑む初。
颯希「初……」
初「私の早とちりだったんだね〜」
颯希「いや、ありがとう。お弁当も」
初「あっそれは……良かったら食べてください」
颯希「うん、絶対食べる。ありがとう。朝ご飯も食べれなくてごめんね」
初「ううん、お仕事頑張ってね!」
颯希「あ、待って初」
初「ん?」
颯希「明日は早めに帰れそうだから、夜は外食しない?」
それを聞いて嬉しそうにはにかむ初。
初「うん! 行きたい!」
颯希「何食べたいか考えておいて」
初「わかった」
颯希「気をつけてね」
笑顔で手を振る初。
その笑顔を愛おしそうに見つめながら見送る颯希。
颯希「……ダメだな」
颯希(危うく抱きしめそうになった)
颯希モノローグ【もう自分を誤魔化すのも限界かもしれない。
初は知らないだろう――俺がずっと前から君のことを見ていたなんて】



