○朝・洗面台
鏡の前で自分の頬に両手を当てて見つめる初。
初「……」
2話の回想シーン
颯希『たとえば、俺とか』
颯希『いっそ俺にしとく?』
初「〜〜〜〜っっ」
思い出してにやけそうになりながら赤面する初。
初(あーもーっ! 思い出しちゃう……!)
初「多分私を励まして和ませるために言ってくれたんだよね。冗談でも嬉しい……」
悶絶した後、大きな溜息を吐く初。
初モノローグ【ダメだな、結局お兄ちゃんのことが好きだ。家族を壊さないためにも、諦めなきゃいけない恋なのに――】
初母「……初? 何百面相してるの?」
初「なっ、百面相なんてしてないよ!?」
母に話しかけられ、慌てて誤魔化す初。
初母「そう? ちょっと話があるから来てくれる?」
初「うん? わかった」
○リビング
初「――えっ、新婚旅行?」
初母「ええ。お互い再婚だし式は挙げるつもりないけれど、旅行は行きたいなってずっと話していたの」
鷹宮「四人での生活も落ち着いてきたところだし、そろそろどうかなと思ってな……」
少し気恥ずかしそうな両親。
鷹宮「二泊三日の温泉旅行に行こうと思ってるんだが……どうかな?」
颯希「いいんじゃない? 行ってきなよ」
初「うん、楽しんできて」
ホッとした笑みを浮かべる両親。
初母「ありがとう。お土産いっぱい買ってくるわね」
鷹宮「颯希、初ちゃんのこと頼んだぞ」
颯希「わかってる」
初(ん? あれ、もしかして――三日間お兄ちゃんと二人きりってこと!?)
颯希「てゆーか二泊じゃなくてもっとゆっくりしてきたら?」
初「!?」
初母「いやでも、それは悪いわよ」
颯希「家のことは俺たちに任せてくれていいから。二人きりでゆっくりしてきなよ。ね、初」
初「う、うんっ! それがいいと思う」
顔を見合わせる両親。
鷹宮「二人がそういうなら……」
初母「お言葉に甘えさせてもらおうかしら……」
○数日後・玄関
初母「それじゃあ行ってきます。よろしくね」
鷹宮「行ってきます」
颯希「行ってらっしゃい」
初「気をつけてね〜」
両親を見送る二人。バタンと扉が閉まる。
初(結局四泊五日の旅行になった。五日間もお兄ちゃんと二人きりなんて、どうしよう!?)
ドキドキが抑えられない初。
颯希「さて、昼飯でも作るか」
初「え、お兄ちゃんが作ってくれるの?」
颯希「うん、パスタとかで良ければ」
初「私も手伝う!」
○キッチン
エプロンを付けて料理をする初と颯希。
手際よくパスタを茹でる颯希。
初「お兄ちゃん、料理できたんだね」
颯希「一応一人暮らしだったからね。たまにだけど自炊してたよ」
初「そうなんだ」
初(仕事もできて料理もできるお兄ちゃん、流石すぎる!)
颯希「初は料理上手だよね」
初「基本的に料理は私担当だったんだ。レシピ必死に検索して頑張ってたよ」
子どもの頃の初が一生懸命スマホを見ながら料理する回想カット。
初「少しでもお母さんのこと、楽させてあげたかったんだぁ……」
昔を懐かしむ初の笑顔のアップ。
颯希「――初はすごいね」
初「そう?」
颯希「初のお母さん思いで優しいところ、すごく好きだなって思う」
初「……っ!」
好きという言葉に思わず真っ赤になって言葉を詰まらせる初。
その直後、フライパンの油がはねて初の手に当たる。
初「あつ……っ」
颯希「初! 早く冷やして」
颯希が駆け寄り、初の手を引っ張って流し台の水で洗い流す。
初「ちょっとはねただけだから、大丈夫だよ」
颯希「ダメ。痕が残るかもしれない」
初「……」
密着していることにドキドキが止まらない初。
颯希が絆創膏を貼って手当てする。
颯希「よし、これで大丈夫」
初「ありがとう」
颯希「どういたしまして。初はもう座ってていいよ」
初「でも……」
颯希「後は俺に任せて」
初「っ、ありがとう……」
初(優しくされる度にドキドキしてしまう。さっきの好きだって、家族としてって意味だとわかっているけど――)
料理の続きをする颯希を見つめ、両手をギュッと握りしめる初。
初モノローグ【お願い、これ以上好きにさせないで】
○ダイニング
颯希の作ったパスタを食べ終わったシーン。
初「ごちそうさまでした! 美味しかったぁ」
颯希「良かった」
初「夕飯は私が作るね」
颯希「俺も手伝うよ」
初「いいよ。昼ご飯はお兄ちゃんが作ってくれたんだから」
颯希「初だって手伝ってくれたでしょ。それにまた怪我しないか心配だしね」
初「お兄ちゃん、ちょっと過保護すぎない?」
颯希「妹がかわいいからね」
初「もうっ!」
初モノローグ【そう、私は義妹だ。義兄妹としてずっと一緒にいられたら、それだけで幸せだよね】
颯希「……」←意味深に初を見つめる
二人で談笑しながら楽しそうに夕飯を作るシーン。
颯希が買ってきたノンアルコールシャンパンを開けて初の手料理を楽しむシーン。
○夜・リビング
ソファに座ってうつらうつら船を漕いでいる初。手にはグラスを持っている。
颯希「初、ここで寝たらダメだよ」
初「ん……」
さりげなく初の手からグラスを受け取る颯希。
颯希(これ、ノンアルコールシャンパンのはずだけど……)
グラスを見て首を捻る颯希。
ソファの前にあるローテーブルの上に置いてあったチョコレートの箱に気づく。
颯希「取引先からもらったウイスキーボンボン、まさかこれを食べて?」
初「んん……」
颯希「初、まさか酔ってる?」
初「よってないよぉ……?」
颯希(あ、酔ってるな)
ヘロヘロになって眠そうな初に肩をすくめ、ひょいと横抱きする颯希。
初「よってない……」
颯希「初がこんなに酒に弱かったとは。二十歳になってからが心配だな」
初を抱えて部屋に連れて行く颯希。
初(なんだかすごくふわふわする……あれ、颯希さん?)
寝ぼけ眼で自分を運んでくれる颯希を見つめる初。
初(ああ、そうか……これは夢なんだ)
ベッドに初を寝かせようとする颯希。
初、颯希の首元に腕を回して抱きつく。
驚いて目を丸くする颯希。
颯希「初……?」
初「……颯希さん……っ」
とろけるような甘い笑顔で颯希を見つめる初のアップ。
一瞬固まる颯希。
初モノローグ【本当はね、お兄ちゃんじゃなくて名前で呼びたかったの。夢の中なら、呼んでもいいよね――?】
スーーと寝息を立てて寝落ちする初。
颯希「……なんだよ、今の」
ギシ、と音を立てて眠る初の頬に触れる颯希。
颯希「そんな風に名前で呼ばれたら、義兄でいられないんだけど」
熱のこもった、余裕のない視線で初を見下ろす颯希のアップ。
初の頬を撫で、顔を近づける颯希。
初モノローグ【私はすごく幸せな夢を見ていた。颯希さんとキスする夢を――】
初に覆い被さる颯希。
キスしたのかしていないのかわからないアングル。



